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待ち合わせ ページ32

約束の日のお昼、職場に宏光が来た。

私と付き合っていた頃は、取引先の営業部にいたからしょっちゅうここに来ていたけど、異動して人事部に行ってからは顔を出したことはほとんどなかった。


冬田さんがにこにこと宏光を迎え入れて、いそいそお茶をいれてくれてる。

近くまで来たから、なんて明るく言う宏光は、家では見せないキラキラした顔で微笑んだ。


「嫁がいつもお世話になってまーす」なんて言って、菓子折りを置いていった。開けなくてもわかる、私のだいすきなラスク。ホワイトチョコかかったやつ。


上司の国分さんと仲良さそうに話して、帰っていく。
私を見て、にこって手を振った。


今日は、宏光は飲み会があるって言ってた。
じゃあ私も外でごはん食べて帰ろうかな、って言った。
小さな嘘が、少しずつ積もっていく。


宏光に嘘をついてまで、加藤さんと会って何が得られるのかな。
自分でもわからない。



早めに仕事を片付けて、紅茶屋さんに向かった。すっかり日は暮れている。
ドキドキする胸が痛くて、早歩きになってしまう足を何度も止めた。


重たい扉を開けたら、レトロなベルの音。

お店の人と目が合って会釈したら、手で奥を示された。
静かに深呼吸しながら進んだら、奥のテーブルで加藤さんがラップトップを開いてた。


加藤さんはこちらを見て、目をちょっと見開いたあと、ラップトップを閉じてテーブルの上を片付けた。



選ぶ間もなく、2人分の紅茶が入っているであろうティーポットが運ばれてきた。ミルクポットも。


「今日は、アールグレイじゃなくて、ミルクティー用特別ブレンドティー」
「いい香りですね」
「Aさん選びたかった?」
「ううん、うれしいです」


加藤さんが私の名前を呼ぶだけで、なんとも言えず満ち足りた気持ちになってしまう。

私が砂時計をバカみたいにじーっと見つめるあいだ、加藤さんも頬杖ついて本棚をぼんやり見てる。

前回はなんのために一緒にお茶を飲もうとしてるのかわからない2人だったけど、今はちょっとだけ打ち解けたような空気に包まれている気がする。

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設定タグ:NEWS , 加藤シゲアキ , じぇにー   
作品ジャンル:恋愛
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きゃわのすけ(プロフ) - じぇにーさんのお話のゆったりと、じわじわと進む空気感がとても好きです。主人公の心の揺れる様を思いながら、同時に私の心も揺さぶられています。登場する書籍も既知のものだったので、今度読んでみたいと思いました。続きも楽しみにしています。 (2020年1月14日 1時) (レス) id: d7bd95e595 (このIDを非表示/違反報告)
eRu(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!私事ですが、実は占ツクで初めて読んだ作品が、じぇにーさんの『キャッチ・アンド・キス』で、物凄く「シゲだー!」と感動しました。これからも応援してます!Twitterをやっていない故、こちらから失礼します (2019年9月23日 19時) (レス) id: 2d1d6afcf3 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しています。いつもと違う不穏な、寂しい空気感が情景描写と相まってとても美しいな、と思いました!転がる岩のような2人のこれからの進展がとても楽しみです。 (2019年9月17日 0時) (レス) id: fc5ce059f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2019年9月15日 0時

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