悲劇と紅茶 ページ27
加藤さんが渡してくれた本は、悲しいお話だった。
ラストシーンが息を飲むくらい美しくて、思わず涙が出た。
きっと、加藤さんはこのシーンを書くために初めから緻密に物語を紡いだのだろうな、って感じたら、もう一度読み返したくなった。
もう一度読み返していたら、いろいろな伏線に気づいて、さらにラストシーンが愛おしくなった。
そうやって繰り返し読んでいたら、簡単に数週間が経ってしまった。
返さなきゃ、せめて、連絡しなきゃ。
読みました、って報告だけでも。
わかってるのに、なかなか連絡ができなかった。
加藤さんの部屋に帰った時の感覚を思うと、なんだか怖くて。ためらわれてしまったからだ。
加藤さんのタワーマンションの近くまで仕事で来て、ふと、一緒に行った紅茶専門店のことを思い出した。
こないだ加藤さんちでいただいた紅茶、買えるかなって思ったから。
香りが立ち上った時のリラックスした気持ちが忘れられない。
レトロなアンティークが並ぶそのお店に入ったら、カウンターの中にいたお店の人がこちらを見て「あ」って顔をした。
私の父親くらいの世代の方。
「いらっしゃいませ」
「あの、茶葉を買えたらと思って来たんですけど」
「聞いてますよ、お預かりしてます」
「え？」
誰に、何を？って戸惑っていたら、深い緑色のラベルが貼ってあるシルバーの缶が出てきた。
「こちら、ダージリンのアールグレイティーです。今お包みしますね。お待ちの間、何かお飲みになりますか」
「いえ、今日はちょっと、急いでて」
「かしこまりました」
「あの、この茶葉って」
「加藤様からご注文いただいて、お預かりしてありました。ご来店の際に渡して欲しいとのことでした」
「私で合ってますか……？」
そう聞いたら、お店の方は私の名前を知っていて、すらすらと確認した。
加藤様からお預かりしてあります、と繰り返した。
小さな紙袋に収まった缶を渡された。
お代をお支払いしようとしたら、加藤さんからもういただいてます、って言われてしまう。
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きゃわのすけ(プロフ) - じぇにーさんのお話のゆったりと、じわじわと進む空気感がとても好きです。主人公の心の揺れる様を思いながら、同時に私の心も揺さぶられています。登場する書籍も既知のものだったので、今度読んでみたいと思いました。続きも楽しみにしています。 (2020年1月14日 1時) (
レス) id: d7bd95e595 (このIDを非表示/違反報告)
eRu(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています！私事ですが、実は占ツクで初めて読んだ作品が、じぇにーさんの『キャッチ・アンド・キス』で、物凄く｢シゲだー！｣と感動しました。これからも応援してます！Twitterをやっていない故、こちらから失礼します (2019年9月23日 19時) (レス) id: 2d1d6afcf3 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しています。いつもと違う不穏な、寂しい空気感が情景描写と相まってとても美しいな、と思いました！転がる岩のような2人のこれからの進展がとても楽しみです。 (2019年9月17日 0時) (レス) id: fc5ce059f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◯じぇにー◯
| 作成日時：2019年9月15日 0時
