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「……ふふ、よく知ってますよ、加藤シゲアキね」
「ご存知ですか？どの作品から入ればいいですか？」
「……Aさんってそういう冗談言うんだ？」
「失礼なことを申し上げてすみません。半分冗談ですが半分は本当です、読んでみたくて。加藤さんがお書きになったものを」
正直にそう言ったら、加藤さんは照れたみたいに笑って、「時間あります？１５分くらい」って言った。
今日は、宏光遅い日だったなってカレンダーを思い返して頷く。
加藤さんは何も買わずに本屋さんを出て、てくてく歩いていく。
ちょっと離れながら付いてきて、って言われたので首を竦めて歩く後ろ姿を追いかけた。
外はすっかり日が暮れている。
ひんやりした夜の空気。
少し歩いたら、この前カーテンを取り付けた加藤さんのタワーマンションに着いた。
離れたまま、でも一緒に部屋まで上った。
加藤さんは部屋の中がほんのり温かいことを「さっきまで書いてたから」って説明しながら、リビングの電気をつけた。
相変わらず、何の家具もないリビング。
この前と同じように、えんじ色のブランケットだけがバサッと落ちていた。
リビングの隅には、この前はなかった本の山。
「……家具、まだ入れてないんですね」
「ああ、なんかカーテン屋さんの取り付けが遅れててー」
「え」
「カーテンないからまだ家具入れられないんだよね」
「ええ？」
「ってことになってるから」
「……仕事が遅くてすみません？」
「ふふ、悪者にしてすみませんね？」
加藤さんはそう言って、手にしていたダミエのトートをアイランドキッチンのカウンターにのせた。
「家具入れたくない事情がおありなんですね」
「うん、まぁ、でもベッドは一応寝室に入ってる。買ったばっかりで置くとこがなくて。あと本棚もそろそろ入れないとちょっと不便で……まぁ不便な思いをしながら書きたいとこなんだけど」
「……ここで過ごされること自体が取材なんですね？」
「そう、ここでぬくぬく便利に暮らしちゃったら書けないものを書いてるから」
「なるほど」
「あと、周りの目が届かないところでじっくり書きたい、って気持ちもある」
そう言って、加藤さんは部屋の隅に積んであった本の山から、一冊のハードカバーを手に取った。
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きゃわのすけ(プロフ) - じぇにーさんのお話のゆったりと、じわじわと進む空気感がとても好きです。主人公の心の揺れる様を思いながら、同時に私の心も揺さぶられています。登場する書籍も既知のものだったので、今度読んでみたいと思いました。続きも楽しみにしています。 (2020年1月14日 1時) (
レス) id: d7bd95e595 (このIDを非表示/違反報告)
eRu(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています！私事ですが、実は占ツクで初めて読んだ作品が、じぇにーさんの『キャッチ・アンド・キス』で、物凄く｢シゲだー！｣と感動しました。これからも応援してます！Twitterをやっていない故、こちらから失礼します (2019年9月23日 19時) (レス) id: 2d1d6afcf3 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しています。いつもと違う不穏な、寂しい空気感が情景描写と相まってとても美しいな、と思いました！転がる岩のような2人のこれからの進展がとても楽しみです。 (2019年9月17日 0時) (レス) id: fc5ce059f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◯じぇにー◯
| 作成日時：2019年9月15日 0時
