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帰りの電車は混雑していた。
知らない手が私のスカート越しに触れていることについて、本当にげんなりする。
怖いとか泣きたい気持ちになったりすることはもうなくなった。ただただ煩わしく、気持ちが悪い。自分の欲望を自制できないことについて、気持ち悪い。意味がわからない。
降りる時に後ろを振り向いて思いっ切り舌打ちしてやったけど、きっと向こうにダメージはないんだろうな。
イライラしながら帰宅。
先に帰宅していた宏光がキッチンから缶ビール片手ににこにこと顔を出す。
いいにおいがする。
「……A、何かあった?」
そう言って心配そうな顔をする私の夫は、私の母親以上に母親で、父親以上に父親だったりする。
私の変化を私より先に察知して、それがいい変化か悪い変化かみとって、それなりのケアができるってすごいことだと思う。
「ううん、ちょっと疲れちゃっただけ。いいにおい」
「今日はピザだよん!さっき届いたやつ〜!ビール冷やしといた!」
「ありがとう」
「着替えてきな」
「うん」
着替えてキッチンに戻って、宏光が今日の出来事を話すのを聞きながら、カトラリーやグラスを準備した。
何度かダイニングとキッチンを往復していると、宏光は黙ったままにこにことこっちを見て、両腕を広げた。
広げられた両腕の中に収まって、宏光の肩に頬をのせる。
もう飲んでいて若干火照っているからだと思うけど、Tシャツが湿っていて首元からは汗のにおいがした。
確認みたいな、ハグ。
異常なし、ってお互いの心の声が聴こえるタイミングでどちらからともなく離れて、準備に戻る。
宏光がデリバリーしたピザは、まだあたたかくて美味しかった。
ビールを飲みながら、2人でたっぷり食べた。
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きゃわのすけ(プロフ) - じぇにーさんのお話のゆったりと、じわじわと進む空気感がとても好きです。主人公の心の揺れる様を思いながら、同時に私の心も揺さぶられています。登場する書籍も既知のものだったので、今度読んでみたいと思いました。続きも楽しみにしています。 (2020年1月14日 1時) (レス) id: d7bd95e595 (このIDを非表示/違反報告)
eRu(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!私事ですが、実は占ツクで初めて読んだ作品が、じぇにーさんの『キャッチ・アンド・キス』で、物凄く「シゲだー!」と感動しました。これからも応援してます!Twitterをやっていない故、こちらから失礼します (2019年9月23日 19時) (レス) id: 2d1d6afcf3 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しています。いつもと違う不穏な、寂しい空気感が情景描写と相まってとても美しいな、と思いました!転がる岩のような2人のこれからの進展がとても楽しみです。 (2019年9月17日 0時) (レス) id: fc5ce059f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2019年9月15日 0時