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「あ！不審がられてる。違う違う、言っとくけど、家にあげる人については、どの方もいただいた名刺の名前で一度Facebookの検索かけたりはしますよ、これでも名と顔が知れている者なので。わざわざ言わないすけど」
「……そうでしたか」
「でもほとんど何もわかんなかった、出身と既婚かどうかくらいしか」
「……ほとんど……私は見るだけで」
「まぁそれはいいんだけど」
加藤さんの目的がわからなくて混乱する。
砂時計はとっくに砂を落とし切っていて、ガラスの中で山になっている。
加藤さんが私の目線に気づいて、そっとポットカバーに手をかける。白いポットをそっと持ち上げて、カップに注いでくれる。
赤っぽい色の紅茶がたっぷりカップにそそがれる。
「あ、やべ」
「……どうしました？」
「……いや……Aさん、ミルク入れるって言ってたのに、注ぎすぎちゃってすいません……」
目的はわからないけど、なんか心からの悪人ではなさそう、って私の本能が言ってる。知らんけど。
そもそも心からの悪人なんているんだろうか。
恐縮する彼にお礼を言ってから、たぷたぷに注がれた紅茶を口元に近づけて一口含んだら、豊かな香りが鼻を抜けた。
だいすき。アールグレイ。
あ、ちょっと渋い。
「あの部屋は、執筆のために借りたんです」
そう加藤さんは言った。
「……死ぬためかと思いました」
「書くためです」
「そうですか」
「……あの、今からお話することをわかってもらえるかわからないすけど、どうしても書かなきゃいけないものがあるんです。結末はもう決まっていて。主人公の男は、死ぬんです。あのタワーマンションで」
「…………」
なんと相槌を打ったらいいのかわからず、頷いた。
「でも理由がわからない。なぜあいつがしぬのか、こう、今のところ僕にはわからないんすよね。なので、体験してみたくて。あの場で」
「……取材の邪魔をしてしまい……申し訳ありませんでした」
「いえ、うれしい誤算でした。Aさんは帰りたいからじゃないか、と言った。確かにそうではないかと思いました、あのタワーマンションは空に近い。彼は中高ずっと陸上部だったんです、高跳の選手でした」
「…………」
「……すみません、こんな理由でお誘いしました」
私がつい黙ってしまったのを見て、きまり悪そうに目を伏せた。カップに入った紅茶を一口。唇がつやつやと濡れる。
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きゃわのすけ(プロフ) - じぇにーさんのお話のゆったりと、じわじわと進む空気感がとても好きです。主人公の心の揺れる様を思いながら、同時に私の心も揺さぶられています。登場する書籍も既知のものだったので、今度読んでみたいと思いました。続きも楽しみにしています。 (2020年1月14日 1時) (
レス) id: d7bd95e595 (このIDを非表示/違反報告)
eRu(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています！私事ですが、実は占ツクで初めて読んだ作品が、じぇにーさんの『キャッチ・アンド・キス』で、物凄く｢シゲだー！｣と感動しました。これからも応援してます！Twitterをやっていない故、こちらから失礼します (2019年9月23日 19時) (レス) id: 2d1d6afcf3 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しています。いつもと違う不穏な、寂しい空気感が情景描写と相まってとても美しいな、と思いました！転がる岩のような2人のこれからの進展がとても楽しみです。 (2019年9月17日 0時) (レス) id: fc5ce059f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：◯じぇにー◯
| 作成日時：2019年9月15日 0時
