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｢……職員A｣
踵を返して次の目的地を目指すつもりが、ケセドに呼び止められる。
基本的に上層のピンチヒッターを務めている私と中層のセフィラであるケセドの間には過去さしたる交流は無い。
その証拠に、彼は記憶という概念を持たないロボットであるにも関わらず私の名前を知らなかった。
知らなかったからネットワークに繋いで検索した。
｢僕は諦めた。それを誰かに強要するつもりは無い｣
｢はい……？｣
｢でも、君には敢えて言おう。諦めた方がいい｣
彼の目に当たる機関は手元のコーヒーではなく私を見据えていた。
ティファレトや上層セフィラとは違う、不思議な重みを持った視線だ。
｢僕らはアブノーマリティを観測し分析することが出来る。でも、アブノーマリティを理解出来るのはアブノーマリティだけだ｣
話はそれだけだ、と言って彼は去って行った。
何を今更当たり前のことを言われたのか。理解など出来るはずがない、アレらは化け物であり、我々は人間なのだから。
抽出部門のメインルームに赴けばビナーが丁度紅茶に口を付けていた。
｢ビナー、アブノーマリティへの対処に際し譲って頂きたいものがあります｣
｢……職員A、君は卵は好きか？｣
｢……卵、ですか。さほど好きではありません｣
抽出部門のセフィラは迂遠で分かりづらい物言いを好む。
翼に入社するほどのエリートですら会話を放棄するような有様だ。
｢黄身と白身は完全に分離しているが、ほんの少しつつかれれば直ぐに溢れて混ざってしまうような、或いは拒絶の喪失｣
｢……紅茶の茶葉をいくらか譲って頂けますか｣
私は彼女との会話は比較的好ましいものとして認識している。
世界の根幹に触れたものとして、触れかけた者として、少数派の価値観が共通することが多いのだ。
ただしそれは時間がある時に限ってのものであり、観測を控えた今はその限りではない。
｢君とは、道を違わぬことを祈るばかりだ。ゲブラーよりも余程｣
｢ありがとうビナー｣
茶葉を受け取り、これ以上ビナーの長話に付き合わされる前に急いで立ち去る。
まだ福祉部門のセフィラルームにも立ち寄らねばならないというのに、これではオスマンを随分待たせてしまっているだろう。
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志摩(プロフ) - H2Oさん» H2Oさん、閲覧ありがとうございます。アブノーマリティの設定はめちゃくちゃ悩んだので褒めて頂けて嬉しいです。更新頑張ります。 (2019年7月16日 8時) (
レス) id: 4b0ab5b92a (このIDを非表示/違反報告)
H2O(プロフ) - コメント失礼します。このパロディとても好きです。待っていました。各アブノーマリティの設定も凝っていて、読んでいて世界観に飲み込まれました。これからの更新楽しみにしております。 (2019年7月16日 7時) (レス) id: e433076a9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志摩 | 作成日時：2019年7月11日 0時
