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いつもながら厳重に閉められた扉を開くと、部屋の隅で小さく丸まった豚が1匹。
先程も見かけた私の束の間のひと時を尽く邪魔してくれた憎き豚だ。
幸か不幸か抑圧作業には対象への暴力も含まれることだし、食肉化を願うならある程度痛めつけられた方が喜ぶのではないか。
「やあ豚、さっきぶりだな」
「フゴーッ」
素早く立ち上がった豚は勢いを付けて走り出し、おもむろに私の向こう脛に頭突きを繰り出した。
「オ゙アッ」
怪我の類は仕事の都合上慣れているが、それでも痛みが無いわけではない。
反射的に向こう脛を抑えるようにしゃがみ込めば、待ってましたと言わんばかりに顔目がけて擦り寄ってきた。
「う、わ……豚ァ!離れろ!!」
何発か適当にピストルを撃ち込めば、流石に痛みでよろめいた。
その隙をついて体勢を立て直す。
ぺっ、口の中が豚の毛まみれである。ぺっぺっ。
「はぁ……おま、ほんと、いい加減にしろよ……」
豚のくせに心做しか嬉しそうな顔をしていやがる。
どうやら抑圧作業は当たりらしいな……可能かどうかは置いておくが。
再度ピストルを構えれば、撃たれることに対する恐怖は無いのかじっとこちらを見ている。
短いしっぽをちぎれんばかりに振っているところを見るに、心底嬉しいのだろう。
「フゴッ」
いつまで経っても撃たない私に痺れを切らしたのか、自ずから足元をチョロチョロし始める。
絶妙にウザったいが、撃たれて喜ぶと分かれば撃たなければ良い。
その場に腰を下ろすと、先程のような勢いはないものの無遠慮に顔に擦り寄ってきた。
「……フゴ」
何か気になるものでもあったのか、執拗に私の左耳に擦り寄っている。
ピアスやヘアピンなどの装飾品は一切つけていないので、あるとすればコネシマに毎回噛まれた跡くらいだ。
「何か気にな……ングッ、ガ、しつこいわ!」
あんまり擦り寄るので尋ねてみようかと口を開けば、凄まじい速度で口に頭を突っ込まれた。顎割れるかと思った。
「フゴフゴッ」
再び引き剥がすと、不意にこの豚泣きそうなのかと思った。
豚の表情なんて分からないし、ましてや豚が泣くのかどうかさえ知らないけど。
何となく悲しいのかなと思った。
抱えていた手を離すと豚は今までにないくらいゆっくりと私の左耳に擦り寄った。
「マーキングのつもりか?」
豚は何も語らない。
背中をさすれば満足そうに鼻を鳴らしていたが、執拗に左耳に顔を擦りつけることはやめなかった。
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志摩(プロフ) - H2Oさん» H2Oさん、閲覧ありがとうございます。アブノーマリティの設定はめちゃくちゃ悩んだので褒めて頂けて嬉しいです。更新頑張ります。 (2019年7月16日 8時) (レス) id: 4b0ab5b92a (このIDを非表示/違反報告)
H2O(プロフ) - コメント失礼します。このパロディとても好きです。待っていました。各アブノーマリティの設定も凝っていて、読んでいて世界観に飲み込まれました。これからの更新楽しみにしております。 (2019年7月16日 7時) (レス) id: e433076a9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:志摩 | 作成日時:2019年7月11日 0時