ex3 ページ17
手が震えて、手紙を取り落とした。拾わなきゃいけないと思うのに体が動かない。まるで他人の身体を動かそうとしているようだ。私が私じゃない？大先生はずっと変わらず私に接してくれてたのに、腹の中では私を疑ってたの？
｢…………A｣
数年呼ぶことの無かった名前。以前は数秒もしないうちに気だるげな返答があったのに、今は誰が呼ぼうが何の反応もない。震える手で何とか机の上に置いたもう1通を開く。
私に字を教えてくれたのはAだった。お世辞にも出来のいい生徒ではなかった私に根気強く付き合って、何度も何度も見本を書いてくれた。私には誰が書く字よりも綺麗でかっこよくて、憧れた文字が並んでいた。懐かしい文字に自然と溢れ出した涙とともに、この数年間感じ続けてきた違和感が溶けて無くなっていく。
｢しあ、わせに｣
知らなかった。私にとって魔女はA1人だけで、他に魔女がいるなんて深く考えたことは無かった。世界のどこかにいるものとして、当然のように漠然と受け入れただけだった。知らなかったはずなのに、当然のようにA以外の魔女と戦争をしているのだと理解していた。
雪が解けるように失われていくこれはきっと、Aの記憶だったものだ。あとに残るのはシャオロンを庇って倒れたところから飛んで中央司令部に駆けつけたこと。眠っている間に明かされたものは記憶ではなく知識として、実感のないものに変わり果てた。幼少期の記憶も靄がかったような不気味さが消え失せて、ハッキリしている。
｢……返事しなきゃ｣
私はAじゃない、グルさんを好きになったのは私だ。Aの記憶が無くても私はグルさんが好きだ。だからこそ、Aの言うように幸せにならなければ。
彼女のお願いのひとつくらい、簡単に叶えられる人でありたいと思う。
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旱(プロフ) - 占いツクールでまさかこんな素敵な作品に出会えるとは思いませんでした…話もちゃんとしていて楽しく読ませていただきました。魅入る者を作った作者さんと同一人物だったとは…素直に高評価です。 (2019年7月24日 12時) (
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作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月26日 19時
