Special2-2 ページ26
｢禿のクセに口答えすんじゃねぇ！｣
楼と楼の隙間から怒声が響く。我々国ではこういった花街の人間は国家資格を要するれっきとした公務員のため、こういった禿に対する理不尽な暴力はほとんど存在しない。
何しろ国家の暴力装置たる軍を率いる幹部が大の風俗好きでしょっちゅう出入りしているため、花街内のあらゆる情報が彼に筒抜けになっている。クソ先輩のくせに有能っぽくてムカつく。
｢……彼女にお使い頼んだの自分なんすけど｣
何となく、故郷のチビ達に似ているなと思っただけだ。遊牧民だった俺達は定住に慣れないうちにああやって怒られたことがある。大人の下らない権能を振り翳すだけの、威圧的な暴力。
｢……躾くらいしとけ｣
酒に酔っているのか、大した執着もなく去っていく。右手に握った酒瓶を振りかぶられていたら最悪の事態も考えられた。
｢……平気っすか｣
怒鳴られていたのは片手に収まるような年頃の女の子だった。比較的身形は良く、少なくとも禿ではないことが伺える。買い物に来ていたのか重そうな野菜をいくつか抱えており、重さ故か恐怖故か小さく震えていた。
子どもに話しかける時は極力視線を低く、とひとらんらんに口酸っぱく言われたことを思い出してその場にしゃがみこむ。
｢……あり、がと｣
｢ん｣
随分顔の整った子だと感じた。将来はきっと美人になるだろうが、この街にいる限り将来は決められたも同然である。
｢おじちゃ、め｣
じっと目を合わされる。整っているとはいえ幼女に見つめられたところでどうとも思わないが、おじさん呼びには心が痛んだ。子供からすれば確かにおじさんだが、もう少しお兄さんとかでいたかった。
｢……目？何かついてますか｣
菫色の瞳は民族特有のものだから、この国では確かに珍しい。だからといって幼女にガン見されるほど変わったものでは無いはずだが。
｢ママといっしょね！｣
彼女の母親も紫の瞳をしているらしい。幼女自身はこの国の一般的な色である黒の瞳をしているし、父親の色を継いだのだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 11人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
旱(プロフ) - 占いツクールでまさかこんな素敵な作品に出会えるとは思いませんでした…話もちゃんとしていて楽しく読ませていただきました。魅入る者を作った作者さんと同一人物だったとは…素直に高評価です。 (2019年7月24日 12時) (
レス) id: 601b9a7554 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月26日 19時
