38 ht ページ38
朝はいつもより多少遅いくらいだった。陸路で向かえば2週間は見込まなければならないような遠方に赴くというのに、つくづく魔法というのは都合がよく便利なものだと思う。それ故に防ぎようがなく恐ろしいとも。認めたくないが、もしあの魔女がうちの国にいなかったらと思うとゾッとする。フィーに目を付けて必死に探したあの時間にこれ程助けられることになるとは思わなかった。
｢……おはよう、ひとらんらん｣
国主であるグルッペンと話す時ですら、魔女は空中に腰掛けて好き放題言葉を投げる。友人といえど国を背負うものとしてある程度の線を引いた身としては複雑な心境である。
｢準備は出来ているんだろうな｣
｢もちろん｣
｢危険な任務だが頼んだぞ、ひとらん｣
ふわりと魔女が俺の後ろにまわる。こいつは魔法で浮くことが出来るから、しゃがまずとも俺の頭に布を巻くことくらい容易に出来るのだ。黒い布が掛けられた、と感じたのは一瞬で、次の瞬間にはいつもと寸分違わぬ視界が広がっていた。不思議に思って目元に手をやれば確かに布の感触がある。
｢……んん……？｣
目元に触れる布の感触がいつまで経っても一所に留まらない。それどころ後ろの魔女が悩むような声を上げる。
｢……何をしているんだ｣
｢いや……うん？こうかな？あれ？｣
結びあぐねているのか？確かに魔女自身の雑面を結んでもらっているのはよく見かけるが、あれは頭の後ろだから難しいのではなかったのか。正面に据えた今でさえ結べないのか。何だこいつ、ポンコツかよ。
｢貸せ。自分でやる｣
確かに頭の後ろでちょうちょ結びを作るのは難しいかもしれないが、できないようなものでは無い。まして毎日やっていれば出来そうなものだが……ああ本当にポンコツなのか。
｢……じゃあ、魔法を掛けるから。この後ここに戻ってくるまで私の声以外は理解出来ないし、君の声は私以外に理解出来ない言語になる｣
｢さっさとやれ｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 13人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月3日 18時
