21 ページ21
｢ありがとう｣
俺の手から雑面を受け取ると、顔も見ないまま礼を言われた。過去の話云々もそうだが、目下俺が一番気にしているのはこれである。
フィーが倒れた直後は雑面を外していたこともあったのに、今では必ず雑面を付けて絶対に目を合わせまいとしている。俺達の顔が見られないから、という可能性は無いと断言出来る。どういう仕組みかは分からないがあの雑面は文字が読める程度には透過しているらしい。雑面があればきちんと顔を見て話をするし、目が合っている気もするのだ。だからあるとすればA自身の顔を見せたがっていないという可能性。
｢じゃあまた後で｣
違うな、ある程度距離があれば顔を合わせてくれる。顔そのものに原因があるわけではなさそうだ。女湯と男湯で分かれたことだし、グルッペンから言い渡された任務の擦り合わせの中でそれとなく提起してみよう。
｢あの、ゾムさん｣
｢なんや｣
｢Aさんの目の色って何色でしたっけ｣
｢あ〜……ここ最近見とらんからアレやけど、青系やなかった？｣
｢ですよね｣
｢なんかあったん？｣
｢いえ、何でもないです｣
｢……報連相やぞショッピくん｣
先輩である俺に対して思い切り舌打ちをかますショッピくん。1回絞めた方がええんとちゃうかコイツ。
｢……アクセサリーでも贈ろうかと｣
澄ました顔してなかなかにロマンチストである。そして抜け駆け厳禁やぞ。
｢観光地やしなぁ……色々あるやろ｣
幸か不幸か、俺達は幹部の中でも危険度の高い時間が長く続く仕事をしている。その分給金も弾まれているため、大概のものは買えるような大金を手にしていた。
｢プレゼントなぁ……欲なさそうやんな｣
｢確かに｣
何を贈るにしても悩ましい話だ。だが、なんて幸せな悩みだろうか。惚れた女に掛ける時間がこんなに温かいものだなんて知らなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 13人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月3日 18時
