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墓地の入口に立つと彼女は運んでいた俺とゾムさんの荷物を下ろし、何も無かった掌に魔法で花束を作った。色とりどりの花束は銀世界で一際目立っている。
｢……なんや、見たことない花が混じっとるんやけど｣
｢どれのこと？｣
｢これやこれ｣
ゾムさんが指さしたのは赤く色付いた花だった。花弁が2枚に分かれており、そこからさらに白い花弁が覗いている。
｢ああ、これはディセントラという花だ。ある程度暖かいところの花だから見慣れないんだろう｣
｢はえ〜、ひとらんなら知ってるかもなぁ｣
｢知っていたとしても栽培しようとは思わないかもしれないな。何といっても死に至ることのある毒草だ｣
毒草だと知っていながらわざわざ墓に供えるというのもどうなんだろうか。実は親戚一同が嫌いだったりするのか？
｢君たち幹部からグルッペンに送るならまあ、花言葉的には不自然ではないな｣
｢花言葉とか詳しいんすか｣
｢いや、この花だけ｣
それぞれに供えるだけ供えたAさんはさして興味も無さそうに立ち去ろうとする。彼女が持つ風習がどういうものか分からないが、墓参りってそんなにあっさり終わるものか。
｢何かこう……挨拶とかせんでいいの？｣
ゾムさんもあまりの呆気なさに驚いたらしい。あまり思い入れのない親族だって墓参りとなればそれなりに留まるものだと思うのだが。
｢……さほど実感が無いんだ。この下にあの人たちがいると思えなくて｣
これ以上踏み込んでいいものか、躊躇した。今までの頑なさからしてみればAさんの家族構成や子どもの頃の話が出てきたのは大収穫だ。十分すぎる。表層を撫でるだけならもう彼女を知り尽くしたと言っても良いのではないか。
｢さて、雪が強くなってきたし街へ出て宿を探そうか｣
差し出された手は今までどれだけの重荷を自分に課してきたのだろうか。それを思うと数時間前の浮かれた気分など微塵もわいてこなかった。
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作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月3日 18時
