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｢……人のものと分かって手を出しているなら、当然事を構える覚悟はあるな？｣
｢もう。ジョークじゃない……｣
一度も聞いたことの無い低い声がAさんから発せられると女は名残惜しさを隠しもせずに離れた。そういえばAさんが怒っているのを目にするのは初めてだ。
｢まあ良いわ。こんな雪の中に埋められたんじゃ手紙が可哀想だから預かっていてあげたの。感謝して欲しいわね｣
懐から封筒を取り出して手を離す女。それは地面に落ちることなく真っ直ぐAさんの手に納まった。
｢失せろ。不愉快だ｣
｢ふふ、どうせ集会で会うんだもの、その時たくさんお話しましょうね｣
そう言い残すと女は虚空に消えた。去り際に落としていったカーネーションは嫌がらせだろう、即座にAさんが燃やしていた。
｢……何やあれ、知り合いか？｣
｢……んのクソ女……！｣
AさんはAさんで機嫌が最高に悪い。これを何とか宥めすかして彼女の過去を探る？無理難題にも程がある。
｢あの｣
｢ショッピくん｣
不意に実家で飼っている猫を思い出した。構いすぎて機嫌を損ねるとこういう顔と態度をするなぁ、と走馬灯のように思い出が過ぎる。この様子なら燃やされかねない。
｢触られたの、どこ｣
ぐい、とそれなりに強い力で頬を拭われる。何、何が起きてる、俺何されてんの。
｢消毒｣
着ているものの厚みもあって、ばふんと音がした。マフラー越しにおれの顎と彼女の額が触れ、腕が背中に回されたことによって身体が密着する。消毒って、そんなにあの女が嫌いか。
｢……ごめん、不愉快だったでしょ｣
女性の機嫌は得てしてジェットコースターのようだ。先程まであらゆるものを焼き尽くさんばかりに怒っていた彼女は鳴りをひそめ、許しを欲しがるように擦り寄ったと思えば消毒に満足したのかパッと離れた。
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作者名：志摩 | 作成日時：2019年5月3日 18時
