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扉の前。
慌てて駆け寄る。


私の姿を捉えた瞬間、安堵と苦痛を混ぜた表情を浮かべた。


かろうじて屋根のある場所だが、携帯を握りしめている手も、髪も服も。
吹きつける横風によって、びっしょりと濡れている。

涙か雨か分からない水滴が、海斗の頬を伝って落ちた。


バタンとドアが閉まって、真っ暗な玄関。

静かに抱きしめられる。



「もう!風邪ひくでしょ」
『A、A…』



何度も確かめるように私の名前を呼んで、腕の力を強めた。

連絡が取れなくなっていた数時間。

居てもたってもいられなくて、返信もせずに帰ってきたのがまずかったのか。



「ごめんね、連絡返せなくて」
『半分わざとでしょ』
「…」
『笑わないで』
「…え」
『その可愛い顔、他の男に見せないでよ。元太にも、ちゃかにも…如恵留だってそう』


思ってもみなかった言葉に体を離すと、海斗は私の唇に視線を落とした。

その必死な表情を見て、


もう、どうしようもなく、好きだと思った。


息までも飲み込むような口づけ。


雨に冷やされた唇に反して、吐息は凄く熱い。

ドアに押し付けられて、一寸の隙間も許さないとばかりに、体全体で求められる。

ぽたり、と海斗の前髪から落ちた雫が、今度は私の頬を伝った。



『Aから連絡が無くて死ぬかと思った』
「大げさだよ」
『大げさに聞こえる?』



目を細めて睨まれるから、体が思うように動かなくなってしまう。

色気の滲む瞳が、私を逃さないようにじっと捉えていた。



『Aがいなくなったら、生きる意味なんてないよ』



濡れた手で頬を撫でられた。

そのまま、とても自然に。

首に手をかけられる。

同じように、私の手を取って、首を掴むように導かれた。



『Aの全てを手に入れることなんてさ、絶対できないのに。欲しくて欲しくてたまらないんだ』



ゆるゆると強まっていく力。
こちらも反射的に手の力を強める。

圧迫感が心地よくて、視界が滲んだ。


お互いの生死を、お互いが握っている。


そんな形容しがたい快感が、ゾクゾクと全身を駆け巡る。



潤んだ瞳のまま、海斗に微笑まれるから。

なすすべもなく、胸が潰れるほどに痛くて幸せだった。


私たちは、生まれた時から。

地獄にいるかのように苦しめることも、天国にいるかような気分にさせるのも。

お互いにしかできないと知っていた。

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kiwii(プロフ) - N11さんの作品が大好きで、何巡目かわからない位繰り返し読んでは悶えてます。笑 新年度ですし虎さんたちの活躍もめまぐるしく、きっとお忙しくされていることかと思います。N11さんの無理のない範囲で、また続きを読ませていただけるのを心待ちにしています! (2021年4月26日 0時) (レス) id: e9b2ea3480 (このIDを非表示/違反報告)
未成年タイガー - めちゃめちゃ好きなお話…!続き楽しみにしてます! (2021年3月31日 20時) (レス) id: 045394066d (このIDを非表示/違反報告)
- 急展開にゾクゾクしました(T‐T) 続きめちゃ楽しみにしてます……! (2021年3月30日 1時) (レス) id: 1a04ce91b7 (このIDを非表示/違反報告)
N11(プロフ) - kiwiiさん» お久しぶりです、ググってくださったんですね!笑笑 ここからようやく種明かしていきますよ〜!いつもコメントに元気を貰っています、お気遣いまでありがとうございます。kiwiiさんにもっとゾクキュンして頂けるように、頑張って参りますね(*^^*) (2021年3月19日 17時) (レス) id: 3daf08797b (このIDを非表示/違反報告)
kiwii(プロフ) - (追伸)マイフォトストリームをググって震えました……お話の続きが気になりすぎます… (2021年3月19日 10時) (レス) id: e9b2ea3480 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:N11 | 作成日時:2021年3月7日 22時

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