Lost & Found【橙】

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指板へ向けた視線に緊張が滲んでいる。


…やっぱり、海斗の歌声が好き。
のびやかで、芯のある、真っすぐな歌声。

どんな人にも寄り添う海斗の優しさが、表れているような。

きっと、この歌声を聞いたら世界中が虜になってしまうんじゃないかな、なんて、贔屓目。

そんなことを考えていた私とは裏腹に。



何の前触れもなく、突然。

先輩が小さくハミングをした。



ハッと顔を上げた海斗に、彼女は「そのまま続けて」と目線で伝える。

ダイヤルを合わせるように、
次第に先輩のメロディーが明確になって、海斗がそれに合わせてゆく。

今度は、繰り返しのサビの歌詞を直接口ずさむ彼女。
自由に、音楽が楽しくて仕方ないって全身から伝わってきて。

女性ならではの繊細さを持ちながらも、力強い歌声。


二人の音が重なる。


泣きそうなほど美しい音色に心が震える。

恥じらいを含んだ視線を絡ませたまま、二人が照れたように微笑み合う。


弾き終えた海斗は、感動したようにため息を漏らした。


『…こっちのメロディーの方がしっくりきます』
「すっごくいい曲だね」
『でも。まだまだ微妙なところが多くて』
「Bメロのコードをもう少し、こうした方が、私は好き…切なさが出ると思う」


キーボードに近づき、Aメジャーのラドミ。

彼女が左手で自然に押さえたのは、コードを支えるルート音。
ピアノも弾ける人なんだ。


「ここをもっと、このコードを、こっちに変えて」
『こうですか、』


たどたどしくも次々とコードを押さえて、音を出す海斗。

「そうそう！」と嬉しそうなミカ先輩に、小さく笑顔を返す。


『本当に凄いです。ぼく…自分の曲がこんな素敵になるなんて、思わなかったです』
「いやいや、元々素敵な曲だよ。あとはどんな風に磨き上げていくか、ね？」


彼女がにっこりと微笑むと、とうとう海斗は固まった。


先ほどまで可愛らしいと思っていた先輩が、ぐっと大人っぽく見えて。

海斗は放心状態。でも、その瞳の奥には微かな期待と興奮、そして憧憬。

残すは、声も出さず見ている事しか出来ない幼馴染。



二人の姿が映画のように、フィルターがかって見える。



あぁ、嘘でしょう。
これじゃあまるで。

きらきらと輝く、二人の物語の始まり。

出会いのワンシーンみたいだ。

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