Lost & Found【橙】

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数百人が入れる大きな教室だからって油断していた。
完全に遅刻だ。

目立たないように後ろの席にそっと座る。


慣れっこなのか、こちらをちらりとも見ない教授に安心してため息をついた。

視線を斜め前に移すと、あぁ、やっぱり。
肩を並べて座る二人をしっかり捉える。

全学年が受講することのできる授業。
海斗の隣に座り、親しげに会話をするミカ先輩。

彼女は既にこの単位を取っていると話していた。

海斗と一緒に受けるためにわざわざ来ているのか。

…いや。
わざとそう言うことで、海斗に意識させるためか。

絶対そう。

別に悪いことをしているわけではないけれど…。

自分がこの講義に来たくなかった理由をしっかりと確認してしまった。

あーーー、性格悪いな、私。
少し落ち込む。

大切な人の恋を、応援しなきゃなのに。

否定的なことばかり考えてしまう。








いつものサークル。

バンドごとの練習が増えてきて、みんなスタジオに居るのかな？今日は私と海斗だけ。

基本的にライブは毎月あって、参加するしないは自由。

例えばうみ、実はベース歴が長いらしく、サークルとは別で活動しているみたい。

私と海斗はのんびりと、今は、大学祭という大きなステージのために自主練中。



…ここからここの手の移動がいつまでもスムーズにできない。

その度に曲が微妙に止まってしまうのが不愉快だった。

ふうっと、いらつきを抑えるように息を吐くと、ヘッドフォンをつけて練習していた海斗がこちらを心配そうに見る。


『苦戦してる』
「うん…ちょっとね」
『まあまあまあ、気分転換でもしましょう』
「ふふ、何？一発芸でもしてくれるの？」


笑いながらそう言うと、海斗は小さな声で一言。


『話があって…ミカさんのことなんだけど』


全く気分転換になるような話題じゃなくて、ひきつった笑みを浮かべてしまう。

そんな私の様子にも気づかずに、海斗は口を開いた。




「元カレとの関係をやめられない？」


想像していなかった話の内容に、思わず出たのは否定的な声。


『なんかストーカー気質みたいな？元の彼氏さんが家の前で待ってるとか結構あるらしくて』
「だから最近一緒に帰ってるんだ…」
『頼まれたらさ。そりゃあ心配だし』
「でも…それって、警察に届けたほうがいいんじゃないのかな」
『大事にはしたくないらしくて。ほら、ミカさん優しいから』

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