Lost & Found【橙】

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お手洗いから戻ってくると、
いつものギターを取り出している海斗。

緊張した面持ちに違和感を覚える。


「合宿で作りかけだった曲、やっと完成したんだ」
『…そう、なんだ』


思わず返事に詰まった。

ふと思い出す、
海斗に告白された時と同じセリフだった。

ただひとつ違うのは。
あの時は私に向けての曲で、
これはミカ先輩に向けた曲だということ。



緊張すると弾き始める前に唇をなめる、そんな仕草が好き。

合宿で聞いた時よりも完成されたメロディーに、また私の知らない海斗だ、と思った。



歌詞が英語だから分からないけれど、
切なげに訴えような歌い方と、悲しい曲調。

見たこともないような苦しそうな表情。

きっとこれは経験だ。

彼女のことを知っていく度に、海斗は新しい感情に出会う。

それを自分に落とし込んで、表現している。

以前よりも迷いのない指先。
海斗の音楽も、彼女によって磨かれていく。



ねぇ海斗、ずっと一緒にいるから分かるんだよ。

先輩のことが好きで好きで、仕方ないんだね。

松倉くん！と呼び止める、綺麗で曇りのない声の持ち主。

年上なのに可愛らしい人だから。
ふわふわとどこかに行ってしまうように感じているのかな。

海斗が恋に落ちた女性。

私は海斗じゃなきゃ、だめなのに。



思わず涙がこぼれて落ちた。


こんなの。

叶わない恋、なんてロマンチックな言葉は似合わない。

海斗に、二度目の失恋。




弾き終えて、ふっともとの雰囲気の戻っても、やっぱり知らない人みたいで余計に悲しくなった。

私の涙に、困ったようにハンカチを差し出してくれる。


「…感動した」
『良かった。なんか変だったかと思って』
「ううん。自分の事みたいって思ったらなんか泣けてきて、ごめん」


分かってはいたことなのに、頭では理解していたのに。

実際に目の当たりにすると、胸が締め上げられるように痛む。


『どう思う？喜んでくれるかな？』


私の目を見て真っすぐ迷いのない言葉。

決定打だった。

本人に言われる苦しさで、叫びだしそう。

私には完成した曲を聞かせなかった海斗が、
ミカ先輩にはこの曲を捧げようとしているんだ。

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