Lost & Found【橙】

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「おい！全然話聞いてねぇな！」


そう叫んだうみの声で、意識が現実に戻る。

久しぶりに思い出した、約一年前の記憶。


何も言わない私を見て、


「まあいいわ、」


なんて急に面倒くさそうな表情。


弦に手をそえるのを見つめる。

テキトーにはじき出した旋律を聞いて、絶句した。



「…え？なにその手の動き！すごいっ！ベースってこんな音したんだ」
「いや、まーじでなんも聞いてなかったんかい」
「うみ凄すぎる、尊敬！もっと弾いてください！」


記憶を振り払うような空元気。

うみにはバレてない、よね。


「…じゃあ、好きな曲、なんか言ってみ」


口に出したのは、最近お気に入りの邦ロックの曲名。

あー、とにやけた顔。


「それとか特に、ここのベースが気持ちいよね」


さらっとワンフレーズを弾く指先。

軽々と速いパートを弾きこなす姿に、妙な色気を感じる。

こりゃモテるわ…。


「今のフレーズなんかわかる…サビ前のとこらへんでしょ」
「おぉ！わかんだすげーじゃん！基本的にベースは目立たないからね〜」
「なんかうみの演奏って、うまく言えないけど…リズム感？が凄い、好きかも」


私の言葉を聞いてか、未だにやにやしている。


その表情を見て、海斗が言ってくれた言葉を思いだした。


「プレイリストを見れば、その人について分かるらしいよ。何が好きか、何が嫌いか」
「なにそれ、どゆこと？」
「…さぁね」
「それより、俺のこと気になってきたっしょ？」


へらへらした言い方。
思わず流れで頷きそうになって、睨み返す。

そんな私を見て上機嫌になった彼は、ふはっと笑ってから練習を再開した。

先ほどまでの怪しい雰囲気はなくて、

なんだかこの人とはもっと仲良くなれそうな予感。






『おい、盛り上がってんな。晩飯の準備するぞ』


練習を聞いていたら、突然入ってきたのは、

…海斗。


私たち二人を見て、微妙な表情。

お互い他の異性と関わることが少なかったから、なんだか気まずい。





食堂に向かいながら、うみのお気に入り曲のプレイリストを見せてもらった。


「うわ！この人の最新動画見た？一発撮りで歌ってるやつ」
「見た、バチバチに最高だった」
「あ〜私の聴くバンドばっか…」
「ほぉらね」


なぜか肩を組んでくるうみを受け流す。

以前、海斗とプレイリストを見せ合った時は、全く趣味が合わなかったなぁと思わず苦笑した。

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