Lost & Found【橙】

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『ごめん。Aの曲なのに勝手に』


静まり返った楽屋、先程までの強引さと色気なんて嘘のように塩らしい。

まだ心臓がバクバクとうるさくて、頭も心もぐちゃぐちゃ。


「どういうこと？なんで海斗があの曲を？」
『いやごめん。サプライズだったっていうか…海人が来たら詳しく説明する』
「でも、」
『それより大切なこと。伝えたつもりだったんだけど』
「えっ」
『言ったじゃん歌う前に』


海斗の言葉を思い返す。


―――『僕の片思いの相手が書いた歌なんですけど…その子も片思いしてて。だからすごく凄く共感しちゃって』
―――『その子のことを想いながら歌います』



「…片思いの相手が書いた歌」
『そう』
「つまり？」
『そのままの意味だけど』
「でも。そうすると、海斗が私に片想いしてるみたいに…」


笑いを堪えるように口を手で覆っている。

…そんな馬鹿なこと。

期待してしまう心臓だけが、ドクドクと音を立てる。


『Aのこと想って歌ったのになぁ…届いてなかったみたいだし。肝心のAは海人を想って曲を作るし』


拗ねたように口を尖らしては、うるうるとした目。

その表情に弱いって知ってるはずなのに…ほんと反則。


「あれは海斗を想った歌だから」
『…かいと？』
「私がずっと想っているのは…海斗だけだよ」


今言わなきゃ。
そう思うと、びっくりするぐらい素直に言葉が出てきた。


『それじゃあ、どっちの"かいと"か分かんないなぁ』


理解するより前に抱き寄せられていた。

海斗の匂いがグッと濃くなって、
意外にも甘い香水が胸を埋め尽すから、くらくらする。

見た目以上に厚い胸板。


「海斗は…海斗だよ」
『ん？』
「うみじゃなくて」
『海人じゃなくて？』


体を離してじっと顔をのぞき込んでくる。

からかうように甘さを含んだ笑み。


「い、じわる…」
『ふはっ！ごめんて』


なんだか今日の海斗は凄く…。


『つまり…Aが俺を想って作った曲を、俺がAに向けて歌ったってこと？』
「ねぇなんかそれって、」



ふたりで目を合わせてふっと笑いが漏れた。




『運命みたいだね？』




そう。私も思ったの同じこと。


心臓が信じられないぐらい速い。
でも、それを掻き消すぐらいの心臓音が海斗から伝わる。

余裕ぶっていたのに、本当はドキドキしてたんだ。

そう思うと愛おしくて堪らなくなった。


『今まで作った曲全て。Aへの曲だよ』
「ミカ先輩、じゃなくて？」

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