Lost & Found【橙】

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発売前のものが今日届いていることは知っていた。

海人の部屋は相変わらずごちゃごちゃしてんな。

『これなに？』
「あ〜クラになら話してもいいか…」

机の上に置かれた"幸せ"というタイトルのCD。
だるそうな笑顔でベースを持つ海人が、バンドメンバーと共にジャケット写真になっている。

どや顔で曲を流して「Aちゃんって天才だよな」って、当たり前のこと。


ボーカルの男性が悲痛に歌い上げる。

しっとりと流れる、海人独特ベースが心地いい。

でもやっぱり。
初めに作っていたものと、雰囲気は結構変わっちゃったな。


自分ではない人と結ばれる姿を、横で見ている幼馴染の歌詞。

そんな物語を無意識に頭の中で作り上げてしまっては、一人で苦しくなっていたんだね。

自分で仕向けたことなのに、胸が痛む。

と同時に。
その才能にどうしようもなく魂が震えて、涙が頬を伝った。

やっとここまで。


「おいおい泣くなよ！」
『…ギター貸して』


初めに作っていたままのコードをアコギ一本だけで奏でてみる。

どうしてこんなに魅力的な曲が書けるんだろ。


「まって、この曲聞かせたことあったっけ」
『いや』
「マジかよ…何でそんなAと同じように弾けんの」


海人が頭を抱えるのも頷ける。

…普通ならそう思うだろうね。

そんなの、元を知っているからに決まってる。


「お前らってマジで運命なんだな…」


全ての運命は仕組まれたものだと、僕は思うよ。

そして意外にも。
運命は簡単に演出できる。


諦めたように笑う海人。

知恵を与える禁断の果実であり、
絶望の際に現れる救世主。
何よりAを育て、守ってくれる騎士。

三役も担ってくれた事にはとても感謝してる。






始めは純粋な恋心だった。

でも。
自分以外に向けられる笑顔を見て、耐えられないと思った。

だからそっくりの他人にすがってみたのに。

何人と体を繋げても、強まるのはAへの想いばかり。
ここが似てるとか、ここが違うとか比べてしまって。


いや…始めから他人と恋をするつもりも、させるつもりもなかったのかも。

自分以外と恋をするなんて、そんなことは絶対に許さない。


「海斗、ライブもうすぐだね」
『A来んの？』
「うん…誘われたし」


喧嘩のことなんて気にしてないって顔で話しかけてくるから、その健気さに愛しさが溢れた。


苦しめば苦しむほど。

僕のことを考えて求めて。
もっともっと夢中になってくれる。

そうでしょ、A？

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