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「僕のお家だよ。ゆっくり、して行ってね」
お兄さんのお家はシンプルで、白一色で統一されていた。そこに猫が二匹、ゆらゆらと尻尾を振りながらお兄さんを出迎えた。
「僕ね、クリエイターって呼ばれてる職業的なやつだから大体家にいるから。好きなときに来て、帰っていいからね」
それだけ言うと、お兄さんは猫を連れて奥の部屋へと歩いて行った。自由だなぁと改めてお兄さんの部屋を見てみると、本当に殺風景で絵も写真も色もない、ただの白だった。
これほどまでの白を見るのは初めてで、私の家ではほとんど彼の絵で埋まってしまっているので味気ないとか、寂しいとかはなく、見ていて飽きない。それが私が知っている部屋だった。なのにこの部屋ときたら、見渡す限り白一色で面白みの欠片もない、絵の具の変わらない白。
「彼だったら、こう塗るのに」
不意に壁へと手を伸ばし、つーっと撫でるとそこから彼の色があふれ出してくるような気さえした。多分彼は、ここの壁を青で塗って、そこのランプは温かみのあるオレンジで塗り、天井は薄いグレーかな。
「ここは......」
はっと気がつくと、彼がいないのに色のことを考えていた。あんなに四六時中いるから、変な色の癖が写ってしまったのかもしれない。考えるよりも先に、壁を触る手が止められなくて、彼の想いだけが色となって私の中に残ってしまった。
一体今は何色なんだろう。
さめざめとした彼色のブルーかもしれない。
だから流す涙もブルーなのかな。もっと、熱狂的な炎の色とか思ってたのに。
結局どこへ逃げても、私は彼色に染められてしまった。赤から青に、深みのあるブルーに。
「......帰る？」
いつの間にかお兄さんは、扉を開けていたらしい。夜空の真っ黒な中に、ほんの少し混ざる青がなんだか懐かしくて、思わず手を伸ばしそうになる。
「はい、帰ります。ありがとう、ございました」
あの青い星を目掛けて、今度は見失わないように目印として残しておく。
「そう。また来てね」
小さく手を振るお兄さんに向かって、大きくお辞儀をすると今度は缶コーヒーが二つ手渡された。それをしっかりと受け取って、星を追いかけて街を駆けていく。
空を半分塗り替えて、その半分は白を塗ろう。きっといい色になるはずだ。
【うらたぬき】アンドロイド・アイロニー/nana→←【まふまふ】白を青で塗りたくった言葉/みむあき
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