【歌い手】恋愛交響曲。ver.B【大型コラボ】 (ページ5)

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【まふまふ】白を青で塗りたくった言葉/みむあきページ5

何事にも成功して上手くいっている彼が眩しくて、その日私は鍵も掛けずにひっそりと夜の町へと駆け出した。轟々とうなる電車のベンチの隅っこに座って、じぃっと終電を待つ。その間に何本も通る電車から降りてきた乗客にじろじろと見られて、それでまたゴリゴリと精神が削られていった。

「君、一人？」

風が抜けるソプラノの一音のように、耳の鼓膜に優しく響く音色が届いた。新手のナンパか何かか、なんだろうと俯いていた顔を上げると、マスクに帽子の若いお兄さんが私の前に立っていて、右手には缶コーヒーを差し出していた。多分飲めとか、あげるとか、そういうもんだろう。それに素直に従って、軽くお辞儀をしたまま受け取るとその缶コーヒーはぽかぽかと暖かく、まるでお兄さんの優しさを表しているようだった。

「......はい、一人、です」

プシュッと開いた缶コーヒーを飲み込むと、体の芯から温まるように感じて、ほっと息をつく。漏れ出た息は外気の温度と反して、白く空気上に舞った。

「そっか。一人か......なぁに、彼氏とでも喧嘩、しちゃったの？」

お兄さんは私の横に腰掛けると、優しく問う。それは詮索でも何でもない、ただの率直な疑問だった。でもその疑問は明らかに確信をついていて、心のどこかに小さな亀裂が走ったような気がした。

「喧嘩ってゆーか、私のただのエゴとか嫉妬みたいな、」

そんな、つまらないものなんです。失笑交じりに呟いた言葉は、思いの外辺りに響いた。何の考えもなしに放った言葉は予想以上に重かったようで、見えない重みが積み重なってのし掛かる。

「ただ、彼といる私が、好きになれなかった」

本音を言ってしまうのは、自分が思ってるよりも簡単だった。絵の才能がある彼に寄り添う私は、所詮彼にとっては絵の具でしかないのに、決められた色だけでは飽きてしまった私がいてそれに逆らうことがどうしてもできなくて、自らの色を潰して上から黒く塗ってしまった。

「そっか」

お兄さんはまた同じ台詞を吐くと、腰掛けていたベンチからするりと立ち上がってまた最初のように私に右手を差し出した。ただ違うことといえば、その右手は私へ差し伸べられている、といことだけだった。

「じゃ、家、来る？」

そよ風のように言い放った彼の風に、やっぱり私は乗ってしまった。お兄さんの手を取り、静かに頷いて後を着いて行くと、その後ろでは終電を知らせるベルが鳴り響く。

それに気づかないフリをして、王子の後を歩く12時過ぎたシンデレラのようにガラスの靴は履かなかった。