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あれから多分、一時間くらい経ったと思う。
彼女も俺と同じようにお酒に弱いのか、飲み始めればすぐに頬が火照り始めた。けれど、思ったよりガードは固いようで頬が火照り始めてかなり経った頃にやっとのことで自分の下の名前だけをお教えてくれた。
A、というらしい。違和感のない、名前負けもしていない。そんな、彼女にピッタリな名前だと思った。
その名前を心の中で何度も呟きながら、すぐ横でぼーっとハイボールの入ったグラスを眺めている彼女に声を掛ける。飲み物を水に変えたからもう酔いが覚めてきたのだ。まぁ当然だが、理性の戻ってきた頭では彼女をお持ち帰りしようだなんて考えはない。
｢俺、もう帰りますけど……一人で帰れます？かなり、飲んでますけど｣
｢もう、帰っちゃうの……？いいじゃん、ちょっとくらい。私のこと、好きにしていいからさ、もうちょっとだけ一緒にいようよ｣
夜はまだ長いよ？
そう言われた気がした。彼女火照った頬がこちらを向いて、その下で酒でじんわりと濡れた唇が弧を描いている。その唇が、どうしてか美味しそうに見えた。
彼女の近くに寄ったせいで、捕まえられてしまった服の袖。その細い指先にこもる力なんか、振りほどくのは簡単なはずなのに。逃げることも了承する事もせず、ただ熱のこもった目でこちらを見つめる彼女と目を合わせることしかできない。
｢……ね、坂田さんも私みたいな女探してここで飲んでたんでしょ？酷くしてもいいから、私のこと抱いてよ。なんでもいいの、満たしてくれるなら｣
｢そんなあほなこと言ってると、ほんとにホテル連れてきますよ｣
｢いいよ。連れてって｣
そう言った彼女は緩んだ口元を更に歪ませて小悪魔のような笑みを浮かべて見せた。
逃れられない。
その瞳の奥に滲んだ熱に、触れたいと強く思ってしまう。
｢……どうなっても、しらんからな、｣
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