ロンリーオンリーパラダイス

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次の日、出社して早々藤ヶ谷くんとエレベーターで一緒になった。

「おはよう」

白い歯を見せて、にこって、爽やかに笑う。

「おはよう」

「ね、こないだのラーメン美味しかったからまた行きたいんだけど。金曜日行かない？」

「……行かない」

「あ、予定あった？それなら来週でもいいし」

「どうして？」

「え？」

「別にもう外でまで彼女の振りしなくていいんじゃないかな」

「え……」

我ながら卑屈なこと言ってるな、と思ったけど、このまま藤ヶ谷くんのこと好きでいても惨めなだけな気がした。


エレベーターの到着音が鳴ったから、降りようとしたら肘のあたりをつかまれた。

「待って」

「……何？」

「何で急にそんなこと言うの？」

「だって。もう部長との会食は終わったし、約束の舞台も見せてもらえたし」

急いでるから行くねって、腕を振り払うみたいに離した。





・





それから、藤ヶ谷くんはまた出張が続いてた。

顔を合わせなくて済むことに、ほっとする。


少しずつ前と同じ日常が戻ってくる。


金曜日に好きなラーメン食べて。

インスタにあげて。

ユウタのDVDや雑誌を見て、キスミーの音楽を聴く。


これでよかったんだよ、きっと。


私にはこの平穏な毎日が合ってる。



その日も部屋でごろごろしながら、出演した歌番組を何度もリピートしていたら、久しぶりにみっくんから電話がかかってきた。

「久しぶり。元気？」

「うん、元気だよ」

「あれから桐谷は大丈夫なのかよ」

「それがなぜかあれから静かなの」

「嵐の前の静けさ、じゃねーの？」

「やなこと言わないでよ！」

んはは、ってみっくんが笑う。

久しぶりだけど、やっぱりみっくんと話すとなんだか元気になるな。



「みっくんは？オープンの準備順調？」

「けっこいい感じだわ」

「すごいね！オープンしたら食べに行くね」

「おう。週末暇？ひっさびさに休めるんだけど、ラーメンどう？」

「行きたい！…けど、ダメだ。週末、社員旅行なの」

「へー、そんなのあんだ。どこ行くの？」

「近場だよ。箱根の温泉。あ、お土産買ってくるね」

「……爆モテ後輩とはその後どうなってんの？」

「あー…はは、ちょっといろいろあって。最近全然話もしてないな。でも本当そろそろ潮時かも」

「潮時？」

「彼女の振り、もうやめようと思って」




もうこれ以上、報われない恋愛していられるほど、若さもパワーもない。



全部終わりにしよう。



そう、決めた。

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