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ギターのネックを握る手に汗が滲む。緊張で固まる中、視界がパッと晴れる。
その瞬間、Aがステージに登場してまず驚いたこと。
それは大勢の客でも、箱内の圧迫感でもなく、
『みどり…くん…』
後方からステージを見つめる、霊の存在だった。
彼の存在に驚いたのは、Aだけだはなかったらしい。ふと2人の方を見やると、彼らも同様に固まっていた。しかしすぐに自我を取り戻すと、アイコンタクトで合図を送られた。
恭がスティックでカウントを鳴らした瞬間、私達の一曲目が始まった。
ステージに上がると不思議なもので。あれだけ怖がっていた割には、緊張という言葉が似合わないぐらいに堂々としていた。
青斗のベースと恭のドラムのリズム隊にあわせ、弦を弾く。
一曲目からオリジナル曲ということもあり、難しいメロディー。作曲のベース作りは基本的に霊が行っていたこともあり、ギターのパートはそこそこの難易度。
指先に全神経を集中させ、前を向くことなど一切できなかった。
青斗の歌声に合わせ、箱内の客の掛け声が響いた。
すごい…やっぱりバンドってすごい…!
普段は客席から見る側で、こうして演奏する側に立ったことはなかった。
だから、こうして自分たちの音楽で大勢の人が一体となっている状況に圧巻された。
これが彼らの景色。私が心から望んだ景色。
Aは指先を走らせながら、この景色を見させてくれた青斗に感謝した。
それと同時に、あのときの霊の言葉はひょっとすると「代理“程度”の立場」ではなく、「代理という“重要な”立ち位置」を私に委ねると。そういう意味だったのではないかと思えた。
***
「緑屋先輩、ほんとにあのバンド脱退するんですか?」
「…うるさい、お前に関係ないだろ。
お前んとこのバンドに加入してやるって言ってんだ。余計な詮索すんなよ」
彼は少々、悔しげな様子で苛ついたようにそう言った。
自分が元々所属していたバンドのライブを一緒に見に行こうと誘ってきたのは、彼の方だったのに。
なにか気に触ることでもあったのだろうか。
「なんで怒ってんの〜みどりくん?」
「ハ?怒ってない。あとタバコ臭いから寄るなよ」
俺の友人が彼をからかう。嫌がるその毒煙をわざとらしく彼に吹きかけ、楽しんでいる様子だった。
ケタケタと笑いながら、掴みかかろうとしてくる彼から逃げている。
「ねぇぐちさん、これからどーすんの?」
「ん?これから……っふ、決まってんだろ」
壁に預けていた背を起こすと、3人の視線が俺へと集中する。
そして俺は、ニタリと口角を上げてから口をひらいた。
「俺たちのデビュー戦に備える」
***
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時