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目が覚めると、校舎の天井と目が合った。
軽く瞬きをしてからゆっくりと周囲を確認する。そうしてなんとなく理解できたことは、ここが恐らく保健室だということ。
「…あ、起きました?」
それから、彼に寝顔を見られながら夢の世界へと沈んでいたということ。
『ぇ、あ』
彼の前でこの間抜けな声を披露するのは何度目だろうか。
驚きのあまり硬直し声を出せずにいると、心配そうな声色が状況説明をはじめる。
「戻ろうとした時にAさん倒れたの、覚えてます?頭は打ってなかったみたいだけど…その、どっか身体痛かったりとかしてないすか」
ベッド近くに置かれた椅子に腰掛けるぐちつぼくん。彼を見るなり頭まで布団を被りこんだ私は、随分な失礼を披露しているにちがいないだろう。
『だっ、だいじょうぶ…です…』
一体誰が此処まで私を。彼がわざわざ此処に残っているということは、もしかしてそういうことなのだろうか。そもそも養護教諭の姿が見当たらないが、もしかしたら教員がいない為に彼は此処で私を見ていてくれたのだろうか。
頭の中を埋め尽くすのは、現状の謎に対する答えだけだった。
「今怪我人の対応で、先生がここあけてるらしいっす。代わりにAさんのこと見ていてくれって頼まれたんすけど…嫌、でした?」
先の発言以降、布団の中で沈黙を貫く私の意思を読み取ったように答え合わせがされる。彼のその発言からして、明らかに私の行動が誤解を招いているらしかった。
『あ、だっ、ち、ちがっくて、あの…えと……すみません、私はしたない姿を、お見せしたなと、思っ…て…』
被りこんだ布団を握り込む。羞恥心と布団内に籠もった熱とで、身体が徐々に火照っていくのを実感する。
「いやそんなこと…体調、悪かったんすよね。すみません、俺ら全然察せなくって」
『いっ、いいいや、体調が悪いというか…なんと、いうか…』
彼の気遣いに対し、反射的に否定の言葉をブツブツと唱える。
言わずもがな今私がこのベッドにお世話になっている理由は、昨夜の自分の落ち度であり、自業自得の結果が招いた罪状なのだ。つまり、彼が私に謝罪を述べるというのは大きな間違いなのである。
そんな愚かな私の、行事をサボりたいだなどというワガママに巻き込んでしまった彼に対して、謝らなければならないのは私の方だ。
そうして覚悟を決めると、被っていた布団を勢いよく押しのけ身体を起こす。寝不足でこれ以上働きたくないと怠惰な悲鳴を漏らす頭は、その動きでひどい痛みを響かせた。そんな私に驚いて一瞬肩を揺らしたぐちつぼくん。私は、みどりくんの言葉を思い出しながら、恐る恐る彼へ顔を向けた。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時