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中学の頃はほぼ毎日のように彼からギターを教わり、弾き、そしてバンドの練習を見ていたのに。彼はらだおと、毎日一緒にいたのに。
「自信持ちなよA。あいつらとの関係も、ギターの腕前も。なんせ俺が育てたギタリストなんだから」
私と同じように壁へと預けていた身体を起こすと、ゆっくりとその場から立ち上がる。
「それにあいつらは、Aのこと好きだよ。少なくとも、嫌ってなんかない」
『そ、れは…』
「本人にも言われた、って?なら尚更事実じゃんか」
こちらに振り向くことなく、校舎の方へと歩みを始めるみどりくん。スマホを持つ右手をひらひらと振りながら、こちらに別れを告げる。
「お迎えだよA、またね」
またね、彼は確かにそう言った。しかし今ここで引き止めなければ、私からなにか言わなければ、現状はなにも進展しないのではないだろうか。
『ま、まってみどりくん!』
自分の今出せる精一杯で彼を引き止める。が、彼はその足を止めることはなかった。
どんどんと遠ざかっていく背。いつだって私にギターを教えた師匠は、先の読めない行動をする。
その場に取り残され、もどかしい思いだけが心を埋めた。
「おーいAちゃーん!」
すると、大きな声で私の名を呼ぶ者が現れる。その声は間違いなく、先程会話に上がっていた人物の声であった。
「おーいたいた。さっすがぐちさん、Aちゃんの居場所までわかるなんて…」
「その言い方やめろ、こっちの方に歩いて行くのたまたま見たんだよ」
去り際に彼が言い残した言葉の意味を理解すると共に、目の前に現れた彼らへの疑念が募っていく。
『あ、あの…なんで、ここに…』
「えぇ?だってAちゃん、体育祭始まったのに姿見えないから…」
そのたらちゃんの返答に、増々謎は深まる。私の競技出場は午後のみなうえ、学校行事という大きなイベントにわざわざ私のような存在を必要とする理由はあるのだろうか。
「競技一緒に見たいじゃん?あーてか、青斗先輩さっそく次の競技出るらしいね」
当たり前のように伝えられた誘いの言葉。私にそれを断る理由などひとつもない。
『そ、そうなん…ですね』
「ね、はやく行こ!最初の競技終わらないうちにさ!」
ぐちつぼくんの腕を強引に引いて、たらちゃんは私に満面の笑みをみせた。
先程のみどりくんの言葉が改めて胸に刺さる。彼らとなら、もっと、仲良く…
『は、はい…!』
彼らを追うようにして無意識に足が駆ける。その逸る気持ちは、自分がわざわざ此処へ訪れた理由を忘れさせていた。
視界がぐわんと歪む。気づくと身体の力は抜け、酷い頭痛と共に地面へと身を放った。
「Aさん?!」
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時