S2-1)抑え込む想い。 ページ44
《青斗side》
机上に置かれた卓上カレンダーを見れば、もう5月も中旬であることに気づかされた。テスト期間なんて、前回まではいつも通り適当にやればそれなりに適当な点数がもらえた。だがそれも、前回までなのだ。
今年度で3学年。高校3年ということは、今年は受験期。ノートに数式を書き綴りながら、その憂鬱さを鬱陶しく感じた。
それをかき消さんとばかりに、そばに置いていたマグカップに手を伸ばす。口に含んだ温かさは、香りの良い酸味を引き連れて広がる。それで少し、落ち着いたような気がした。
『ただいまー』
そこで遠くから、愛おしい妹の帰宅音が聞こえた。すぐに持っていたペンを置いてから卓上ライトの電源を落とす。
ドタドタと激しめに音をたてながら階段を下り、声の主の元まで向かった。
「Aおかえり〜遅かったね、心配してた」
『もう高校生だよ?この時間ならまだヘーキ。あっねぇ聞いて聞いて!』
手を洗って洗面所から出てきたAは、なにやら楽しそうに放課後の話を始めた。
クラスメイトである友達に勉強を教わってきたこと、とても分かりやすくて勉強が楽しかったこと、友達らしいことができて幸せだったこと。一通り早口で話し切ると、俺にニコニコと愛らしい笑みを浮かべてみせた。
その笑顔は本当に珍しい。一緒に住んでいる俺ですら、彼女の笑顔を見れる機会はとても少ないのだから。
けれど、それがこの胸の苦しさを加速させた。
「そっか…よかったねぇ〜高校生活楽しんでるみたいで安心した」
けれどこの気持ちは気のせいだと抑え込むのだ。それしか方法はない。わざわざ傷ついたと公にする必要はないし、その理由を詮索する必要もない。
『ちょっ、頭撫でんな!』
「んふふ、風呂入っておいで、そしたら夕飯食べよ」
今日は両親の帰りも遅い。今の彼女とこれ以上2人きりでいたら、俺がどうにかなってしまいそうだ。
リビングを去っていくその背を見送ってから、ため息をひとつ。何かどっと疲れたように感じてしまうのは、きっとこの余計な想いのせい。
フラッシュバックするのは、彼女に勉強を教えていた時の光景。今はもう、ぼやけてしまっている。
「……俺じゃなくてもいい、そうだよな」
再びため息を吐いてから、自分に言い聞かせる。
彼女にこの話をしてしまう日がいつか来てしまうのだろうか。そう考えると、存在しそうな未来の自分が憎らしい。
だってそいつは、己の気持ちの制御さえできなかったと言うのだから。
「好きだよ、A…なんてな」
静かなリビングに、乾いた笑い声が落ちた。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時