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「だからっ、そんな、俺がAさんのこと嫌うとか、絶対にありえないんで!あ、あぁいや、でもっ、ギターだけが好きって訳でもなくて…だっだから、その…!」

彼の熱意に圧倒されてしまい、その内容は耳から耳へと流れるだけ。飲み込むどころか、噛み砕くことさえ上手くできない。
一度上げた顔も、彼に両肩をガッチリと押さえられているせいか下げるに下げられない状況。今私の頭に届くのは、ありえないほど煩い鼓動だけだった。

「おっ、俺は!Aさんのこと、好きなんで!だから…!あっ、あぁいや、ちがっ!!いや違くはないけど…そ、そうじゃなくてっ…!」

私も大概だが、彼も随分と慌てた様子で何か必死に訴えている。互いに互いのせいで混乱していることは確かだが、それを止める術は互いに持っていないのもまた確かだった。

そこで突然、私の肩を掴む手がパッと離された。軽くなった身体の感覚に驚いて、私はハッと我に帰る。
今一度彼の方を見れば、一定の間隔を空けて土下座の様な姿勢をしていた。

「………すみません、取り乱しました。全部忘れて下さい」

いや違う、様ではない。土下座そのものだ。
丁寧に頭を下げるその姿に思わず感心してしまうが、今はそれどころではない。この状況をどうにかしなくてはならない。

『えっ、あっ、ああ、ああああ頭に上げてくださ__

「まもなく、完全下校の時間です。校内に残っている生徒は、速やかに下校の準備をして下さい。繰り返します」

そんな荒れた状況の幕引きをしたのは、完全下校を知らせる校内放送だった。放送委員なのか教師なのかはわからないが、機械を通した美声がそこらに響き渡る。

教室に設置されたスピーカーを見上げて、一度深呼吸する。私たちはこんな時間まで学校に残っていたのかと驚きながら、落ち着いてきた頭で次にすべきことを考えた。

『………そっ、そろそろ、帰りましょう…か』

「……そう、ですね…」

異様に気まずい空気は変わらず、私たちはそそくさと学校を後にした。言うまでもなく、帰路を行く私たちの間に会話という会話など存在しなかった。

しかし別れ際、彼は私にこう言った。

「…また、明日!」

確かなのは、私はまだ彼に嫌われていないこと。友達であること。そして、明日以降もまた勉強を教えてもらえるということだった。

先に電車を降りて行く彼の背を見つめて、私はいつの間にか全身を覆い尽くしていた青い春の香りを堪能した。これはあまりにも贅沢すぎると、強く噛み締めながら。

私達の友情はその距離を縮めつつある、それはきっと紛うことなき事実だ。

駅を出て見上げた闇には、見惚れてしまうほど綺麗な星空が広がっていた。

S2-1)抑え込む想い。→←:



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作品ジャンル:恋愛
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時

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