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立ち上がった彼を見て、私も落とした道具を拾い上げてから立ち上がった。
気まずい沈黙が流れる。書きかけの数式を視界に捉え、今の頭では続きを解くなんてできそうにないなと思った。
「すみません、俺が変なこと言ったから…」
『ちっ、ちちち違います!わっわわ、私が!私が悪いんです!だっ、だからっ、あのっ』
沈黙を破った彼の自責に、思わず大声で反論した。
だってこれは間違いなく、100:0で私の責任なのだから。彼にこれ以上、気を遣わせる訳にはいかない。
『あ、謝るのは、こっちです……すみません、空気読めない私が、悪いです…だっだだ、だから、あのっ、えっと』
先ほど拾い上げたシャープペンを握り込む。硬く細長いそれは、私の入学祝いにとらだおが贈ってくれた物だ。
『きっ、きらいに…………ならないで、下さい……』
おこがましいなんてことはわかっている。自分がどれだけ失礼なことをしたかも、全部。
先日の事故といい今といい、私は彼に気を遣わせてばかりだ。気遣うべきはこっちなのにも関わらず、私は彼に無理をさせ続けた。
きっと嫌われた、間違いない。そう思っていた。
「なっ、えっ、まっ待ってください。な、なんで俺が嫌う前提で…」
『…だっ、だって…その…』
「いや、俺がAさんのこと嫌いになる訳ないじゃないですか!だって、俺はAさんのこと…!」
突然ボリュームが上がった彼の声量に身体を震わす。
ところが彼の台詞はそこで途切れ、続きをいくら待てど聞こえてこない。
不思議に思い顔を上げる。すると彼は、再び口元を覆いそっぽを向いていた。先ほどから思っていたが、やはり彼は体調が悪いのではないだろうか。
『…ぐ、ぐちつぼくん、もっもしかして、どこか具合悪かったり……』
「…あ、ああああいやっ、ちがっ、違くて、そのっ…だからっ、あの…っあー!!!」
そんな私の心配とは真逆に、彼は突然これでもかというほど元気そうな叫び声を聞かせた。
驚いてしまい身体がビクリと震える。両手で自身の顔を覆う彼の耳は、とても赤いように見えた。
「………さっき言いかけたこと、忘れて下さい…」
絞り出されたようなか細い声。私は彼の情緒不安定な様に呆気にとられ、返答のひとつもできなくなっていた。
「そのっ、だから、えっと……そ、そう!ギター!ギターが、Aさんのギターが!好きだから!俺はAさんのこと、嫌いになったりなんかしないですよ?!」
すると再び大声で彼はそう言った。両手を覆っていたその手は、私の両肩に置かれている。
突然縮められたその距離に、私はひどく動揺した。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時