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《Aside》
ぐちつぼくんはとても頭が良い。それは前々から分かりきっていたことだったが、今改めてそれを実感する。
自身が豪語するように、彼は教えることさえ上手なのだ。学びは人に教えられて初めて理解できるんだと、前にらだおが言っていたのを思い出す。
「っあ、あーいやっ、なんでもないっすよ!あ、じゃあ次、こっち解きましょうか」
ところが先ほどから彼の様子がおかしい。もしかして、この程度が解けて喜んでいる私にドン引きしているのではないだろうかと、頭の片隅で考える。
しかしそのネガティヴな思考を上回るほど、私は今数学への熱量が凄まじいのだ。
こんなに興奮しながらペンを走らせるのはいつぶりだろうか。おそらく、受験勉強の時ですらこれほどの熱量はなかった気がする。
「……Aさん」
すると、不意に名前を呼ばれた。
夢中で数式を書いていた手を止める。顔を上げ、左隣に座る彼を見た。
「…そ、その…特に嫌ってわけでは、ないんですが………あの……」
首の後ろを押さえながら、彼は何か言いたそうにしどろもどろしている。そんな珍しい様子に、先ほどの不安感がさらに加速した。
彼はまるで、普段の私のような様子なのだ。
いや待てよ。普段の、私?私は普段、どんな風に彼と接していただろうか。
何か思いついたように手元を見る。机上に置かれた筆記具、ピッタリと接した机同士。そしてなにより、異様に近い彼との距離。勉強を教えてもらうとはいえ、この距離は流石にやりすぎではないだろうか。
全て理解した瞬間、自身の顔に熱が集まるのがわかった。
『…あっ、ぁえと……わっ私、そのっ、あぁ…ごっごめんなさっ…!つい、夢中に、なって…』
床が擦れるのもお構いなしに、激しい音を鳴らしながらすぐさま自分の机を引き離す。その勢いのあまり、使っていた筆記具が軽快な音を鳴らして床に転がった。
すぐに拾おうとしゃがみ込み手を伸ばす。しかしその手は冷えた無機物ではなく、大きな手の温かさに触れた。
「『あっ』」
手と同時に重なる声。思わず顔を上げると、彼の姿がすぐそばにあった。
ぱちりと目が合う。その一瞬で、互いにフリーズして動けなくなってしまった。
異性が苦手な彼に、先ほどから私は失礼な態度ばかり取っている。今更自覚して配慮したところで、彼は許してくれるだろうか。もしかしたら、もう既に嫌われているかもしれない。
「…あっ、す、すまん!」
彼の動揺した大きな声で我に帰る。その大きな手は引っ込められ、私の手には先ほど触れた温度だけが残っている。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時