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「それに、それだけ教え甲斐があるってことじゃないですか」
『へ……あっ、こっこれ…』
彼女の手に握られていた用紙を指差す。きっと教師の元を後にしてから握りつぶしたのだろう。皺ができて情けない姿をしたそれは、彼女のか細い字が読み取れるか怪しいほどだ。
「復習からはじめましょうか。大丈夫です、俺結構教えるの自信あるんすよ」
彼女と2人きりの空間。それを意識しようがしまいが、一言一言を慎重に選んでしまうほど動揺している。
その動揺を隠すようにして、俺はニカっと笑って見せた。
***
ところがどうだろうか。今この状況に置いて、その動揺はバレている気がしなくもない。
『じゃ、じゃあこれも同じ方法で解けるんですね…!わ、すごい…さっきまで全然わからなかったのに…!』
普段授業をまともに聞いていない彼女は、問題の根本的な解き方から全く理解していなかったそうで。小テストの内容である応用が解けなかったのも納得だった。
とはいえ初回のテストは中学の内容の復習がほとんど。一応受験を合格したのだから、流石にこの程度の内容は彼女でも容易らしい。興奮しながら紙にペンを走らせるその姿は、隣の席でありながら初めて見る光景だ。
『で、できた…とっ解けました…!できましたよぐちつぼくん!』
その興奮様は凄まじく、彼女は無意識に俺との距離を縮めている。普段のコミュ障っぷりがまるで嘘であるかのごとく、彼女は口もよく回っていた。
「…あ、あぁ確認してみますね」
その姿に圧巻され、否、突然つめられた距離感に動揺し、俺は熟れた頬を隠すので精一杯だった。
普段は人ひとりが通行できる程度に間隔があった、俺の席と彼女の席。今は人どころか荷物を置くことさえできないほどピッタリとくっつけられている。
ノートに書かれたか細い数字を見ながら、今この状況を他生徒に見られたらあらぬ誤解を招いてしまいそうだと考えた。
「凄いです、全問合ってましたよ」
『ほ、ほんとですか…!よかった…!』
ノートを返却すれば嬉しそうな笑みを見せられる。その初めて見せた表情は、俺の心臓を撃ち抜くには十分すぎた。思わず顔を逸らして口元を覆う。
若干長めな前髪のせいで、普段からその表情はまともに伺えない。しかし今この距離で、しかも横からであれば、その姿を見るのもなんら難しくはない。
『…ど、どうかしましたか…?もっもしかして、私何か悪いこと…』
彼女に見惚れてしまい、必死に思考を元に戻そうと争う俺に声がかかる。心配そうなその声から、先の興奮さは感じられなかった。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時