: ページ37
歌い出したぐちつぼくんの歌声はとても綺麗だった。だけど今の私にとっては、このバンドの音楽は、ギターは、霊という存在は、とても見苦しかった。見ていられなかった。今にも目を逸らしたくて仕方なかった。
それでも釘付けになってしまうのは、【緑屋霊】というギタリストの才能なのだろう。
「…本気で喧嘩売りに来たってことか」
再びらだおがボソリと呟く。がさついた空気の中でも、その小さなつぶやきは私の耳に入った。その声色は重く慎重でどことない寂しさすら感じた。怒気というより哀愁。そんな言葉が当てはまっているだろう。
あの日ステージに立ったときと同じだ。私を後方から見上げるみどりくんの姿。ただの観客だという風格と面構えで、私達の音楽を聞いていた。
今は逆の立場となって、再び私達を動揺させている。一体彼は、何がしたいと言うのだろうか。私には皆目見当もつかない。
気がつけば、心臓を握りつぶされそうな音楽は止んでいた。軽いバンド紹介が始まっている。MCを務めるのは、学校での雰囲気とは違い明るく元気で活発なぐちつぼくんだった。後ろでスティックをクルクルと器用に回すたらちゃんは、いつもどうりの様子だが。
「そして最後に、サポートギターの紹介です…え、マイクいるの?」
一気に会場内に緊張が走る。私は思わず、握りこぶしを作った。
「あぁ、自分で言うよ。
…ア、どうも。みどりです。先日は【運営】のライブ出演を、急遽見送らせていただきました。期待させてしまっていたファンの皆さんには申し訳なかったです。詳しい訳は話せませんが、今唯一言えることはこれだけです。
俺は今後しばらく、この【限界】のリードギターとして活動していきます。そういうことで、どうぞよろしく」
実に端的に、紹介という紹介もなく彼はマイクをぐちつぼくんへ返した。ざわつく会場の様子に反して、一切の動揺をみせないところが実に彼らしい。
そして平然と、まるでそれが当たり前の行いだと正当化するように、2曲目の演奏が始まった。
「A」
『…………』
「俺、諦めないよ」
『!』
「俺絶対、霊と仲直りするから」
「お前の大好きな【運営】で、またライブするから」
「もうお前を悲しませたりなんかしない」
64人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時