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「すごい、まるでさっきの奇行が嘘みたいにかっこいい…!」
『ん"っ』
「おいたらこ」
上げて落とすことすら得意だというのか。先程から続く彼の妙な言動で、私のHPはゼロに限りなく等しい。ぐちつぼくんというストッパーが存在しているからまだしも、もし彼と1V1なんてしたら速攻決着がついてしまいそうだ。
「あぁ待って待ってごめんごめん、ホントに言い過ぎたって。ねぇお願いだからそんな魂抜けたみたいな顔しないでー!Aちゃーん!」
『私は変人の奇行種…』
「お前のせいでAさん壊れたぞ」
肩を掴まれ強めに身体を揺さぶられている気がするが、私の脳内が思考を止めることはない。再び自虐の罵詈雑言で頭の中が埋まる。そうだ、所詮私はギターのおかげでギリギリ人の形を保てているだけの、ただの魂なのだ。
すると突然、俯く私の顔が無理やり持ち上げられた。両頬を優しく支えられ、無理やり意識を連れ戻される。
『っぁ』
「あ、戻ってきた」
するりと離れたその温かみは、どうやらたらちゃんのものだったらしい。彼は申し訳なさそうに、しかしどこか楽しそうにしながら、私を心配している様子だった。
それに対して私が大丈夫だと返せば、彼はぐちつぼくんの説教をうざったそうに聞き流しだした。
「じゃー次、ぐちさんね」
「人の話聞けよ」
たらちゃんの教育を諦めたのか、言いながら彼は窓際に置かれたギターに手を伸ばす。スタンドに立て掛けられたその真っ赤なボディーは、なんとも情熱的でかっこいいデザインだ。レスポールタイプのスタンダードな形。
チューニングするその姿を見ながら、とても彼らしくて似合うなと思った。
ふたりの会話に一段落つくころ、チューニングは終わったらしい。苦笑いを浮かべながら彼は言葉を漏らす。
「Aさんに比べたら全然下手っすよ、俺は」
ははっと乾いた笑いで誤魔化すぐちつぼくん。コミュ障はあいにく、そういった言葉に対する謙遜のセリフすら思い浮かばない。
よって私が何か思いつくよりも先に、彼の指がその鉄を弾いた。
実力は初心者だと言う彼の言葉は、どの程度のレベルを指していたのだろうか。私には少なくとも、彼の音色が初心者と呼んでいい程度のものとは思えなかった。
レスポール特有のパワフルな音色が室内に響く。防音材で囲まれた部屋は、彼の奏でる音で溢れかえった。
曲は初ライブで披露する予定の自身らのオリジナル曲なのだと言う。しかしその曲調は、どこか聞き覚えがあるような気がしてならなかった。特徴的なそのフレーズは間違いなく、この身体が知っている。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時