1-7)期待の新生バンド、始動。 ページ33
少し時間をおいて落ち着きを取り戻した私は、ライブのチケット料金を尋ねた。だが彼らは、友達としての些細なプレゼントだと言って対価の受け取りを遠慮する。
バンド活動において、それも学生となってくると金銭面のやりくりはだいぶ難しい。それを十分わかっている身としては、どんな言いぐさであれ払わざるを得ないだろうと思ったのだが。彼らは何があっても受け取らぬと頑なだったために、こちらが早々と折れてしまった。
「じゃ、ライブ以降からは勉強会ってことで」
『え"』
さらっと言い放たれる想定外の言葉。参加拒否を申請する隙は存在しないし、そもそも申請が受理されることもないのだろう。
「たらこの口からその単語が出てくるとこは珍しいけど、実行できたことは一度もねぇよな」
「いや?俺はやるなんて言ってないけど」
カウンターパンチとはこのことか。今なら彼を裏切り者と呼称しても、恐らくなんの罪にも問われない。でなければ不平等だ。
「え、いや…何言って…」
「勉強はふたりですればいいじゃん?俺は一夜づけするから、赤点回避は余裕だし」
私にはじめてできた高校の友人は、とんだ薄情者らしい。彼は誇らしげにドヤ顔を決め込んでいる。
私だって、一夜づけができる頭なら既にその手段でなんとかしている。しかしそんな大層な頭の構造をしていないので、たった一晩でなんとかなるなんてことはないのだ。
単純に寝不足でテストに臨むだけなので、解答用紙を枕にして試合終了だ。
「…来年後悔すんのお前だからな」
「まぁまぁ大丈夫っしょ。そんなことより、ふたりのギター聞かせてよ。特にAちゃんの!」
頭を抱えていると、不意に名前を呼ばれた。ガバっと顔を上げた先には、笑顔でこちらを見つめるたらちゃんの姿。
私がキョトンと首を傾げると、彼は私の座る背後に置いていたギターケースを指さした。
本日の目的を、すっかり忘れていた。
***
『…こっこんな感じ、です……』
ピックを強く握り込む。掌に滲んだ手汗が酷い。こんな至近距離で、しかもらだお達以外の前で演奏を披露したのは、これが初めてだった。
顔を上げるのが怖い。唯一自分の個性として人様の前でお披露目できる技能とはいえ、人前というのはどうもなれない。今考えてみれば、初めてライブをしたあのとき、私はどうやって演奏していたんだっけ。
「すっご.......なんていうか、高校生のレベルじゃない」
ひとりあたふたとしていると、そんな呟きが投下された。声の主は続けて、私の演奏について述べる。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時