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『わ、きょーさん!ウチまで来てくれるなんて珍しい』
何気に久しぶりに彼と会えたAは、先の事情についてよりも再会の嬉しさで溢れていた。
大学生の彼は勉強やバイト、バンド活動などで忙しいらしく、滅多にここへ訪れることはない。
そんな彼が、時間の合間を縫ってわざわざ来た理由。Aは、なんとなくそれを察した。
『…らだおなら、さっき受付の仕事終えて休憩室行ったよ』
「…そか、ありがとう。手伝い頑張ってな」
『うん、ありがとう』
Aは、恭の背中を黙って見送る。事態は相当深刻な状況であるらしかった。
***
その後、ライブハウス内の客が出払ってから2人は戻ってきた。
Aは本日の出演バンドの人たちが出払ってから、閉店後の掃除を行っていた。ライブステージ上の機材を運び、モップ掛けをする。いつもの仕事の流れ。
今日は青斗と恭も手伝ってくれたために、早めに仕事を終える事ができた。
そして仕事が一段落した後、Aは決まってやることがある。
「お、Aのギター聞くんは久々やなぁ」
「俺はいつも聞いてるけどね〜」
ギターの練習だ。Aは亡き父の影響からか、中学の頃からギターを弾いていた。
元々形見として残されたギターは大切に部屋で保管し、自身の練習の為にギターの購入を決意した。しかしそれを知った義父は、Aの為にとエレキギターを譲ってくれたのだった。
楽器の収集が趣味の一環である義父は、Aや青斗が音楽に目覚めるとすぐに自身のコレクションを譲ろうと決めていたのだと、後に語られた。
本人たちが音楽に興味を持つことが、まるで最初からわかっていたかのような口ぶりであった。
『…あ、あのさらだお、きょーさん』
アンプにケーブルをつなぎながら、恐る恐る声をかけた。
例の話について、どうしても聞きたくなってしまったからだった。
ギターを持ったとき、霊のことが思い浮かんだ。彼はAにとってのギターの師匠であり、尊敬すべきギタリストだ。
だからこんな不安な気持ちのまま彼に教わった音色を奏でるのは、なんだか失礼な気がしてならなかったのだ。
『運営のライブ…楽しみにしてるの、私だけじゃないよ。
3人の音楽にはたくさんのファンがいる。わざわざ遠方から、SNSでファンになった人が見に来てくれるぐらい運営は需要のある存在だってこと、わかって欲しい…』
それはファン第一号であるAの、精一杯の思いだった。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時