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「着いたぁ!うっわホントに久しぶりだわ。おじゃましまーす」
「おい、勝手に行くなよ…って聞いてないか」
隣から落胆のため息が聞こえる。ぐちつぼくんは興奮気味なたらちゃんの背を、渋々といった様子で見逃していた。
『ここ、って…』
正面にそびえ立つその建物はお店だった。
遠くから見てもわかるほど、美しい花々に彩られた入り口。付近の看板には、店の名前らしいアルファベットが刻まれている。無論、学のない私にはその読み方など一切合切検討がつかないが。
「俺の家、花屋やってるんです。父親がひとりでやってて…今ちょうど配達で出てるっぽいんすけど」
『お花屋さん……』
ここで私は気づく。そうか、今朝彼の衣服から感じた、柔軟剤に混じったフローラルな香りの正体はこれだったのかと。
目の前にある花々に見惚れ、思わず見入ってしまう。家でも学校でも、ロックか自虐にしか頭を使わない私にとって、それらは汚れた心を浄化するにはもってこいの代物だった。
そして木製の看板付近に飾られた、紫色の花が視界に入る。その植物からは、特段心休まる優しさが香った。思わずそれをじっと見つめ、これは一体なんという名の植物だろうかと考える。
「それはライラックですね。今頃がちょうど開花時期で、よく香水なんかにも使われてる花です…気になるんすか?」
『へ、あいや……その…あ、アジサイみたい…だな、と…思って』
不意に背後から声をかけられ、美しい花々に夢中になっていた私はぐちつぼくんの声に少々驚く。屈んで眺めていたその植物は、どうやらライラックという名らしかった。
彼の簡易的な説明を聞いて、流石は花屋の息子だなと感心する。やはりこんなにも多くの植物に囲まれていれば、知識は自然と付くのだろうか。
「ふふ、そうっすね、紫陽花によく似ていると思います。ライラックは香りも素敵なんですけど、花言葉なんかも__」
「ねぇーふたりともなにしてんの?早く来てよー!」
そんな関心深い彼の説明は、たらちゃんの大きな呼び声によって遮られた。それに対しぐちつぼくんは「俺の家なんだが?」とこれまた大きな声で言い返していた。やはりふたりは、なんだかんだで仲が良い。
その後申し訳無さそうな表情で、彼は私を家の中へと案内した。どうやら彼の自宅は、店の裏口から入れるようになっているらしい。そこには水やり用と思わしきホースやバケツが備えられており、地面のアスファルトは雨も降っていないのに水浸しになっていた。
階段を登り案内された彼の部屋へと入ると、大きな機材を背もたれに不貞腐れた様子でスマホを操作するたらちゃんが目に入った。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時