１-６）期待の新生バンド、招待。 ページ28
大きな鉄の箱に揺られる。ガタンゴトンという重圧な音色は、先程とは違い全身に強い振動を与えてくる。それに足を取られないよう、必死になってドア付近の手すりにしがみついた。
電車は嫌いだ。時間帯や日によっては大勢の人間で溢れかえり、人が人によって揉みくちゃにされてしまう恐怖の箱。なにより、この大きな揺れだ。体に力を入れて全神経を集中させていないと、今にも体を持っていかれそうになる。急ブレーキなんてかけられた時には、両足が持っていかれぬようにするのがやっとだ。
と言っても、これらの即時解決方法は存在する。言わずもがな、座席に腰掛けることである。
でもそれはまた別の意味で好まない。私の中で、それはこの鉄箱攻略においての禁じ手だと思っているからだ。あれに頼ってはならぬ。あれの快楽を覚えてしまったら最後、老人に席を譲るなんて品行ができなくなってしまう。そう確信めいた何かが、いつも私に訴えかけていた。
「ええー、今日ゲームしないの？」
「当たり前だ、本来の目的忘れんなよ」
目の前のふたりはなんら平気な顔でつり革に掴まり、駅まで歩いてきた時にように会話をしていた。流石はクラスのトップ陽キャだ。運動音痴の私とは違い、体幹が鍛えられている。この程度の揺れではビクともしないらしい。
それに比べ私は、ただ手すりにしがみついて窓の外を呆然と眺めるだけ。常に全身に力を込めてるので、会話なんて以ての外だ。
そこでふと、自分がいつも利用している電車と同じであることに気がついた。思わず彼らに自分から話しかけた。
『あ、ああの…お、おふたりも、方向こっち…なんですね』
私のそのか細い声は、てっきりこの騒然とした車内では聞き取れないんじゃないかと思った。しかしふたりは、そんな私の声をきちんと聞き取ってくれたらしい。私の声量とは打って変わって、食い気味な答えが返ってきた。
「え、もしかしてAちゃんもこっちの路線？まじ？え、最寄りどこ？！」
「俺たちの最寄りは〇〇駅ですね」
『あ、わ、私っ、は…△△駅なので……１つ隣、ですね…』
驚いたことに、彼らの地元は高校から２駅隣、つまり私の最寄り駅の１つ手前だった。案外住んでいる場所が近いらしい。彼らもその事実に対し驚いた様子をみせた。
「あ、ほらもう着く。ぶっちゃけ、結構近いからこの高校選んだんだよねぇ校則もゆるいし」
そんな彼のセリフを合図にするように、徐々にスピードを落としていく電車。
予想外の共通点に興奮して気が緩んでいた私は、鉄箱がブレーキを掛け始めたせいでバランスを崩しそうになった。つくづく思う、やはり電車は嫌いだと。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです；； 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います！ 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (
レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…！評価の星の右側を何百万回押したいぐらい！最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。（僕は今発熱なう）応援してます！あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑川林檎 | 作成日時：2023年8月5日 5時
