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突如投げられたその共感の矢は、呆然と突っ立っていたぐちつぼくんへと刺さった。
当の本人は首を上下に動かす。背丈が平均よりもずば抜けているせいで、その表情は窺えない。いやそもそも顔が見れないので、彼の様子を読み取ることなんてできなかった。
「ほらね?だぁからそんな怯えた顔しないでよーAちゃん!別に俺たち、Aちゃんのこと取って食ったりなんかしないよ?」
『へ…』
たじろぐ私の顔を覗き込み、まるで幼い子どもをなだめるように話しかけられる。
彼のその発言から察するに、どうやら私の考えは表情にすべて出ていたらしい。自覚した瞬間、なんだか恥ずかしくなった私は自身の顔面を両手で覆った。
「あはは、照れちゃった。自覚なかった?」
「…Aさんのことからかうのもその辺にしとけよ、ったく」
穴があったら入りたいとはまさにこの事。全身を覆い尽くす羞恥心は、もはや私という存在をこの世から消し飛ばさんという勢いすら感じる。火照った頬の熱が一向に収まらない。こんなんじゃ、今朝となんら変わらないじゃないか。
「んははっ、はいはーい」
未だにクスクスと笑っているらしい、前方からわずかに笑い声が聞こえる。その笑い声に合わせるようにして、止めていた3人の足は再び歩みを進めた。
頬の熱も収まってきたようで、顔を覆っていた両手を離す。
「お前はいつまで笑ってんだよ」
ぐちつぼくんは呆れた様子で彼を叱っていた。どうやら、今の彼はいつも通りの様子だった。
私の愚行が招いた事故のせいで、私とぐちつぼくんの間にはえらく気まずい雰囲気が漂っていた。それは今朝から今この瞬間も尚、健在している。
そのせいか否か、彼の挙動は今日一日中おかしいのだ。
移動教室の際には目的地と反対方向へ行こうとして、クラスメイトであろう生徒に止められていたし、板書している際は何度も文具を床に落としていた。加えて授業中、当てられたことに気が付かないほどボンヤリとしていたらしく、教師に心配されていた。もしあれが私なら、きっとまた職員室に呼び出されていたんだろうなと思い耽る。
「あ、ちょうど電車来るっぽい」
そうこうしていると、あっという間に最寄り駅へと着いた。各々が定期をかざし、軽快な機械音を鳴らして改札を通る。そしてたらちゃんの言う通り、ホームにはもうすぐ電車がやってくるようだった。ガタンゴトンという重圧な音が徐々にこちらへと近づいてくる。その音に耳を傾かながら、これから向かう場所について考えた。
「俺もぐちさんの家行くのは久々なんだよねぇー」
そう、私達3人は今、同じ目的地へと向かうために下校を共にしているのだ。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時