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終礼の終わりを告げる音が響き渡る校内。たちまちに教室を後にしていく生徒のそのほとんどが、これから部活動に勤しむ者たちだった。
多くの生徒が行き交う廊下の騒がしさに耳を傾けながら、未だ名前も分からぬ多数の背中を呆然と見つめた。羨ましいその賑やかさと自分の孤独感を、無意識に比較してしまう。
放課後になるたびにこんな風に自虐で自分自身を戒めるのは、もはや一種のルーティンになりつつある。これは人生負け組の末路なのだと、自分自身を煽りながら。
「Aちゃーん、おーい?Aちゃん!」
『へぁっ』
ぼけっとそんなことを考えていると、突然視界に美少年が現れる。ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべる彼から、今朝の性悪さは感じられない。
「ね、早く行こ!」
『あっ、は、はい…!』
言われるがままに席を立ち、机脇のカバンを手に取る。今一度教室の出入り口に視線を向けると、急かすように手招きをするたらちゃんとそっぽを向くぐちつぼくんの姿があった。
校舎を出て、最寄り駅へと続く道を歩く。私の数歩先を歩むふたりとは肩を並べることなく足を進めた。目線の先はコンクリート。黙って俯きながらふたりの後を追う。
私にとってクラスメイトとの下校など、何度夢に見たことか。歩道に横並びになって、談笑しながら帰路につく。放課後の予定をその場で立てて、無計画に時間をつぶして、日が暮れた頃に解散して。そんなキラキラ女子高校生の代表例を、光景を毎日妄想する。
「ばっ…!てめっ、きっ…聞こえちまうだろうが、ほんといい加減に…っ」
だが今は状況が違う。
そもそも私のようなチンケな存在が、ふたりのようなキラキラした存在の隣に肩を並べるなどおこがましいのだ。談笑してケラケラと笑うなんて以ての外。そんなことをしてみろ、笑うどころか会話デッキも拵えていない私など、あっという間にふたりの陽気オーラで焼き殺されてしまうに違いない。
「へへっ!だってぐちさん、このままじゃずっと進展なしのままじゃん?そこで俺の出番って訳よ?」
だから冗談でも、今の状況を現実として受け入れてはならない。これは決して、現実逃避なんかじゃない。
「んね、Aちゃん!」
『………ぅえ?!ぁ、あえ…と?』
突然ぐるりと視点を変えこちらへと振り向くたらちゃんは、私の顔を覗き込んできた。
すっかり自分の世界に入り浸っていた私は、再び彼の声でハッとさせられる。
なにやら共感の返答を求められているらしいが、肝心なその内容がわからない。
例にも及ばず情けない声だけが漏れる。沈黙に合わせて止まった3人の足。首筋に伝う汗が妙に冷たく感じた。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時