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『あ、ごっ、ごめんなさ…!すっすぐに退きますから、っうぁ?!』

「っちょ…!!」

慌ててその席から離れようとした私は、うかつにも椅子に足をからませ、前方方向へとバランスを崩した。まずい、このままじゃ転ぶ。そう悟ってもすでに遅い。情けない悲鳴を上げながら、これから襲いかかってくるであろう衝撃に覚悟を決めた。

しかし数秒待てど、恐れていた痛みは一切襲ってこなかった。それどころか硬い床の感触はなく、温かな人間からの包容を感じる。瞬間、鼻孔は誰か他人の香りで埋め尽くされた。微かにフローラルな香りがする。

「っぶね…大丈夫っすか。驚かせたみたいで…すいません」

『…へ、ぁ…ぇ』

耳元から聞こえたその声に、思わず身体をビクリと震わせた。ギュッと瞑っていた目を見開く。視界一杯に広がるのは、男子生徒の制服。つい先程まで1メートルほど離れていたはずの姿。
背に回された大きな手の温かみ。自身の頭を支える大きな胸板。

顔を上げずともわかる。今私は、ぐちつぼくんに抱きとめられているのだと。
自分の置かれているその状況を自覚すると、みるみるうちに顔に熱が集まっていく。先程からドクドクとうるさい心音も、さらにその騒がしさを加速させた。

「あ、あの…マジで大丈夫っすか?もしかして、どっか怪我とか…」

私を心配する彼の声が鼓膜を揺する。声すら出せず微動だにできない私は、彼のその問いかけに応じることなどできなかった。
ただただその温かな体温に身を委ねる。ショートした能力不足な頭では、間抜けな声を漏らす以外になにもできなかった。


すると、ガララッと勢いよく教室の扉が開かれた。

「ぐちさーん?なんで俺のこと置いて行って………え」

その聞き覚えのある声に、フリーズしていた意識が戻った。かと言って、この硬直状態から抜け出すことはできそうになかった。背に回された彼の手の力が強まる。

「え、あ…!こ、これは、そのっちがくて…!」

「……………大胆すぎん?」

慌てふためく声が室内に響く。その声量の変化から察するに、たった今まで私を抱きしめていた自覚がなかったのだろう。なんせ彼は異性が苦手だというのだ。通常ならこの様、彼の人間性上ありえない。

教室で抱き合うクラスメイト2名を目撃したその人、たらちゃんは、無言でスラックスのポケットからスマホを取り出した。その直後、カシャッという軽快な効果音が鳴る。

そしてかざしたスマホを口許に当てたたらちゃんは、ニヤリと口角をあげた。

「これ、青斗先輩が見たらなんて言うかなぁ〜」

彼は少々、いやかなり性が悪いらしい。

:→←1-5)期待の新生バンド、予行。



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作品ジャンル:恋愛
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時

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