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それ以来、彼女を思い出す度に胸が強く締め付けられる思いだった。
もう一度会いたい。どうにかして話したい。あわよくば仲良くなりたい、と。
だが異性とのコミュニケーションが苦手な俺にとって、"恋"というのはあまりにも理不尽な感情だった。初めて体感するそのもどかしさに、日常生活に少々支障をきたすという噂は本当だったらしい。俺は身をもって、それを実感した。
入学初日。貼り出されていたクラス名簿に"A"という人名を見つけ唖然とした。漢字が違うかも知れない、同名の別人かもしれない。でも、それでも、もしかしたら…と淡い期待を抱いてしまったのは、恋という病気の症状なのだろう。
そんな俺に対しての祝福なのか罰なのか。指定された自身の席の左隣には、彼女の姿があった。
新品の制服に身を包んだ彼女。以前見かけた際に身に纏っていた中学の制服も似合っていたが、自分と同校の制服に身を包んだ彼女の姿は、それ以上に俺の心臓を鷲掴んだ。
その日から俺は、密かに彼女を目で追うようになったのだ。
密かに、だったのだが。
「そっかぁ〜あのぐっちが恋か〜」
「マジですごくない?これもう快挙でしょ。こういうときって赤飯炊くんだっけ?」
「炊かんでいい炊かんでいい!余計なお世話だから、ほんとに…」
しみじみといった具合にうなずきながらタバコを蒸す男。俺よりも年上の彼は、恋愛においてはそこらかしこの同年代の人間より詳しい。
ニヤニヤとした表情を浮かべる友人がわざわざこの話を彼に持ちかけたのは、友達だからという理由だけではない。それは彼の表情からして明らかだった。
大好きなドラムを叩いているときとは少し違う、楽しそうなその表情に嫌な予感しかしない。
「原人さん!ぐちさんが女の子と仲良くなる方法、なんかない?!」
「だぁあああから!余計なお世話だっつってんだろ…!」
予感的中。怒りと恥ずかしさで肌を赤く染める俺は、夜更けのコンビニ前で声を荒らげた。近所迷惑など関係ない。駅前のコンビニなんてこんなものだろうと、他人事に思った。
「そんなに?毎日目で追っちゃうくらいには好きなのにぃ?」
ニヤッと口角を上げる友人。図星を突かれた俺は、顔を逸らす以外にその場を取り繕う方法が思いつかなかった。
それを肯定の意と受け取ったのだろう。キャッキャと他人の恋路に騒ぐ友人2人は、街頭の元でいわゆる恋バナを始めた。
否、俺に対する強引な事情聴取であった。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時