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《夏津樹side》

 俺はその感情の名を知らない。知りたくもない。そう思ってしまうほど、自身の双眸はある一人の人物に囚われていた。
その対象が自身の席を離れることはほとんどない。つまり俺の視界も、その一定の範囲からずれることは殆どない。気づけば目で追ってしまう。その無意識の行動を自覚するたび、あまりにも彼女が魅力的に感じてしまうのはきっとその人のせいなのだと言い聞かせた。決して俺がおかしい訳では無い、決して。
不意に目があったりしないかと時々思う。しかし彼女は、俺と視線を交差させ動揺させるどころか、こちらの存在に興味すらないらしかった。

授業中。必死に板書するフリをして左の席に視線をやる。するとどうだろう、彼女はあろうことか授業のほとんどを睡眠学習で済ませている。ご丁寧に、一切書き込みのなされていない教材を、机に突っ伏す自身の姿の隠れ蓑にしていた。
昼休み。基本的に自身の席で昼食を済ませている彼女。俺は少し離れた友人の席で、友人と共に昼食をとる。その間だけは、教材と向き合っているときよりも彼女を注視することをあまり躊躇わなくて済むので助かっている。

「………今日は弁当なのか」

「え、誰が?」

本日の購買での戦果を頬張りながらボソっと呟いた。俺のその無意識の発言に、即座に反応した友人。俺はキョトンと首を傾げる彼に慌てて向き直った。

「あ、いや…なんでもない。ただの独り言」

「…ふーん、そぉ?」

咄嗟に思いついた言葉で取り繕う。しかしその俺の慌て様は、流石に長年の友人にはバレバレだったようだ。なにか企むような笑みを浮かべ始めた。その表情を見た俺の直感が叫ぶ。これはマズイ、と。

「…あ、そういえば今日来ないんだね〜青斗先輩。昨日は確か、ぐちさんの隣の席の女の子回収してってたのに」

「…………そうだな」

「んあ、よく見たらあの子今日はお弁当なんだね〜。昨日は財布持って青斗先輩と教室出てったけど!」

「…………そう、だな」

「いいな〜俺も毎日弁当にしようかなぁ〜…ってか、今日ウチのクラスで弁当なのあの子だけだね。
ねぇ、ぐちさん?」

「…………………何が言いたい?」

半分ほど食べた惣菜パンの残りを、危うく握り潰してしまいそうになった。誰が見てもわかりやすいほど俺は動揺している。無駄に手に力は入るし、耳は熱を持つし、目の前の友人はムカつくほどニコニコと笑っているし。どうすれば良いと言うのだろうか。

「逆に聞くけど、なんでそんなにわかりやすいの?」


「……………………………なんのことだ」



どうやら俺は、こういう時素直になれないらしい。

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作品ジャンル:恋愛
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時

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