1-1)歯車の狂い始め。 ページ2
桜舞う校門前。ひとり、その場で大きくそびえ立つ校舎を正面から見上げた。
心地よい春の風を全身で感じる。4月とはいえ、春は始まったばかり。まだ肌寒く感じるのは当たり前だった。
高校に入学して数日、Aは本日も朝早くに家を出た。
早めに登校すること自体に特になんの意味もない。まだ誰もいない教室を独り占めして静かな空間を堪能したいという、一種の癖のような行いだった。
下駄箱で靴を履き替え、自教室のある階へと続く階段を登りながら本日の日程を頭の中で整理する。
入学前から楽しみにしていた高校生活。早く環境に慣れて、友人をたくさん作って、楽しい日常を送りたいと夢見ていた。
そういえば、今日から部活動の体験入部が始まる。ふとそれを思い出すと、背負っていた大きなギターケースがより一層重く感じた。
階段の途中で足を止める。壁の掲示板には、部活動紹介のポスターが掲示されていた。
肩紐を強く握りしめる。
掲示板から目を逸らすと、不安をかき消すようにしてその場から走って逃げた。
勢いよく自教室の扉を開け、なにかから逃れるようにして飛び込んだ。後手で締めた扉は、ピシャリという音を上げて閉まる。大きく深呼吸をして息を整えながら、やはり運動は嫌いだなといつもながらに思った。
窓側の、自分の席でもなんでもない席に着く。半分ほど窓を開けてから、その机に突っ伏した。
大きなため息を吐く。流石にもう吐息は白くならないが、優しい春風は少しの運動で火照った身体を癒やしてくれるようだった。
***
結局その日の放課後は、先輩生徒の勧誘に目もくれず一目散に帰路についた。
背中の重みを意識して、一体なんのためにわざわざ持ってきたのだと自身に問責する。
いやでもだって、仕方ないじゃないか。頭の中でぐるぐると言い訳の言葉を考えた。
別に誰かから責め立てられている訳でもないのに、そうやって言い訳をして自分を納得させようとするのは、いつものこと。幼馴染の彼には、よくないだなんていつも言われてしまう。
じゃあどうしたらいいの、と彼に聞くと
「A〜!待って待って、置いて帰らないで!」
『わーうるさ。相変わらず声でか。足早いね』
彼は決まって
「いや…今日一緒に帰ろうって、今朝約束したじゃん?!なんで置いてくの」
『らだおならすぐ追いついて来るかな〜って思って…信用してあげたんだけど』
俺を頼れと、そう豪語するのだ。
「へぇ…今日はデレなんだ?なんかいいことあった?」
でもこんな腹の立つ幼馴染には、腹パンがお似合いだろうと思っている。
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緑川(プロフ) - ぴとあさん» コメントありがとうございます!!そのように評価していただけてとても嬉しいです;; 体調を崩されてらっしゃるのですね、お大事になさって下さい。当方の作品で少しでも元気になっていただければと思います! 励みになります、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (1月2日 21時) (レス) id: 581670bd91 (このIDを非表示/違反報告)
ぴとあ - 好きです…!評価の星の右側を何百万回押したいぐらい!最近寒いので体調に気をつけて頑張ってください。(僕は今発熱なう)応援してます!あと夢主の勉強嫌いめっちゃ共感 (12月31日 15時) (レス) @page46 id: dda73027c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:緑川林檎 | 作成日時:2023年8月5日 5時