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彼女はそれを聞いてぎょっとして慌てて頭を上げるように求めて、そのせいかお腹の傷が痛んだらしい。
「大丈夫？」と大丈夫なわけなんてないのに思わず尋ねると、大丈夫なわけなんてないのに「大丈夫です！全然！」と笑ってみせたのだ。ほとんど舞台上でファンに見せるその笑顔と同じだった。
こんな目にあって、大丈夫なわけないのに、そんな風に笑って気遣う彼女がとても切なくて、泣きそうになった。だけど泣いてはいけない。
頼んで二人きりにしてもらってからも彼女は変わらなかった。
どうしたらいいかも、なんて声をかけたらいいかも分からなくて立ち往生している僕に椅子を勧めてくれて、それに従えば、何も言っていないのに彼女の方から話しかけてくれた。
あまつさえ怪我人の彼女が気遣ってくれたのだ。
僕が『fake』という曲が好きだと言ってくれたことが嬉しかった、と言ったのだ。
こんな目にあって、死ぬ瀬戸際まで言って、怒るでも、絶望するでもなく、笑って嬉しかったと言ったのだ。
僕を責めたっていいのに。責めたっておかしくない。責めてくれたら、僕は謝れるのに。
「どうしてそんなふうに言えるの？Aちゃんが刺される理由なんてないのに」
気づいたときには口をついで言ってしまっていた。
言ってから不謹慎だったかな、と申し訳なく思った。
そうしたら初めて、Aちゃんは少しばかりの毒を吐いた。毒にもならないような、小さな小さな恨み言を。
たぶんほとんど勢いで言ったのだろう、言ってる途中ではっと顔をあげて、泣きそうな顔をした。
彼女は何をどこまで抱えているのだろう。
彼女の性格全てを知っているわけではもちろんない。だけどこういう泣き言を言うのは本意ではないのだろうとその顔を見て思う。
「聞かせて、誰にも言わないから」と彼女の力になりたい僕は、Aちゃんの目をじっと見つめて言う。職業柄得た、甘い声を使って。本当は手を握りたいと思ったけれど、手を伸ばすことはしなかった。
僕の視線から逃れるように、彼女はボヤいた。
「刺されたとき、思っちゃったんです。あ、いい口実が出来たなって。とりあえずしばらくはアイドルしなくてもいいなって」
言うように諭しておいて、そんな言葉がAちゃんから出たことに驚いた。それはほとんど自傷行為と変わらない。
彼女の苦悩が垣間見えたのだ。
アイドルを続けたくないほど苦しんでいる。自分が傷ついてもいいから。刺されても構わないと思っているほどに。
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とりむねにく(プロフ) - すごくすごく好きです、陰ながら応援しています！ (2021年8月25日 0時) (
レス) id: 69a1b6ff8d (このIDを非表示/違反報告)
lu(プロフ) - ゆっこさん» コメントありがとございます！よろしければ最後までお付き合いください！ (2021年7月10日 11時) (レス) id: 02c879ed67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっこ(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます！続き楽しみにしています！ (2021年7月8日 0時) (レス) id: 354b579e15 (このIDを非表示/違反報告)
lu(プロフ) - うみさん» コメントありがとうございます！嬉しいです、完結まで書こうと思うのでお付き合い下さい (2021年7月7日 18時) (レス) id: 02c879ed67 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - とっても好きな雰囲気の作品に出会えました！！ありがとうございます！続き楽しみにしてます！ (2021年7月6日 12時) (レス) id: 562e9c2773 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：lu | 作成日時：2021年7月4日 3時
