虹 (ページ10)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:112,350 hit

第10話ページ10

翌日、二人でタクシーに乗り都心へ。
流石に人も多く、自分達を知っているであろう人物が通り過ぎる度に見てくる。
初めてではないので気にしていないが、あまりじろじろ見られるのは良い気分ではない。
目的の店まで歩いていると、前方に見知った顔が同世代ぐらいの男女に絡まれていた。

『あれ、シルクの兄ちゃんじゃ…』

「あ、お前ら」

「うお！マサイとちゅんじゃん！本物！」

シルクの兄に絡んでいた男女が、二人を見るなり周りに迷惑が掛かる程騒ぎ出した。
初対面でいきなり馴れ馴れしいと少し気が引ける。
きっと暇潰し程度にYouTubeを見て自分達を知り、シルクとシルク兄を間違えているのか、或いは兄の存在も知った上で声を掛けたのか。
どちらにせよこの第一声で｢普通の視聴者｣ではない事は伺える。

「久々～、"ことりちゃん"」

グループの一人がAに声を掛けてきた。
Aの表情が一瞬固まり、隣にいたマサイの顔は強ばる。

「え？お前Fischer'sと知り合いなの！？」

「小中一緒だったんだよ、なぁ？」

『…』

「にしても変わってねーな？今度遊びに行こうぜ」

「俺も混ぜろよー」

「ンダホ連れて来てよ、ンダホ！」

勝手に盛り上がる彼等から目を背け何かに耐えるようにAは拳を握った。
マサイの表情も良いとは言い難く、同じく目を合わせようとしない。
そんな二人を見たシルクの兄は、二人の腕を強引に掴み、適当な理由を付けて｢アデュー｣とその場から別の場所へ引っ張っていった。

『すいません、助けるつもりだったんですけど』

「あいつお前らの同級生だったよな」

『同級生っつってもあいつ自身とは他クラスですし、全く関係無いすよ』

「久々って」

ﾏｻｲ「さっきみたいに絡まれたグループの一人って感じで、話した事も無いです」

要するに、自分達にあやかろうと友人ぶる元同級生。
Aの｢ことりちゃん｣というあだ名は当時やんちゃなグループに女の子みたいだ、と小鳥遊の苗字から取り弄られていたあだ名だ。
Aにとって嬉しい呼び名ではない。

「…ま、お前ら気を付けて出掛けろよ」

『お兄さんも。どうせさっきもシルクに間違えられたんでしょ？』

「俺は適当にアデューって言うから良いんだよ」

若干シルクに間違えられるのを面白がっていないか、と思ったが、まぁ、本人が迷惑だと思っていないらしいので良しとする。