第25話 ページ25
ｼﾙｸ「で、何言われた？」
『何って？』
ｼﾙｸ「会議でだよ、何言われたの」
『何も言われてないよ、別に』
ｼﾙｸ「嘘つけ、お前の｢別に｣とか｢まぁね｣みてぇな曖昧な言葉には大体何かあんだよ」
『幼馴染ってすげーなぁ』
そんな自分でも無意識に言うような口癖さえ見抜くリーダーを尊敬するし、気付いてもらえて嬉しいなんて女々しい自分もいる。
しかしどんなに嬉しい言葉を掛けられたって今のAには今回のタイアップ動画に出る意欲は無い。
『今回は俺抜きで撮りなね』
ｼﾙｸ「あ？何でだよ」
『……。｢七人全員でお願いします｣って言われちゃったから』
ｼﾙｸ「は？」
『俺抜きの七人、て意味だろ』
段々シルクの顔が強ばるのが見て伺える。
仲間を人一倍想う男だ、きっと企業者側に腹を立てているんだろう。
優しいなぁ、なんて他人事のように考える。
ｼﾙｸ「んじゃ撮らねえ」
『…は？』
ｼﾙｸ「そんな理由でお前が参加しないなら撮らねぇ」
『駄目だろ、あんな大手企業に恥かかすな』
ｼﾙｸ「俺達にとっちゃ大手企業とやらにお前の存在を消されてもホイホイ動画撮る方が恥だ」
『今回だけの事なんだし一回ぐらい休んだって｢駄目だ｣』
ｼﾙｸ「絶対にそれは許さねぇ」
少しの間違いじゃないか。
幾らタイアップとは言え一本の動画に出ないだけだ。
彼は事の大切さや重大さを理解していないのだろうか。
YouTuberという芸能人でも一般人でも無い曖昧な括りの自分達がその商品の名を担がせて貰える重大さを。
『絶対に白紙にはしてやらねぇ』
ｼﾙｸ「ならお前も出ろ」
『俺は出ねぇ』
ｼﾙｸ「ビビってんのか？他人に呆気なく思われんのが」
『…べ、つに』
ｼﾙｸ「んな言葉は通用しねーよ俺には」
何を言っても見透かされる。
嫌な事は見ないように守ってきた檻を平気でぶち壊して来る。
そんなリーダーが眩しくて、大嫌いだ。
『…帰るわ』
これ以上言い合ったら八つ当たりをしてしまう。自分の弱さと、悔しさに。
シルクは何も言わず止める事も無かった。
外は中々の本降りの雨。
どうせ帰るだけなのだから、濡れても構わないだろう。
今は少し、雨にでも濡れて頭を冷やしたい気分だった。
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作者名：憐
| 作成日時：2018年3月26日 0時
