丈橋 (ページ5)

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（５）ページ5

「海が見たい」

なんてあいつがとつぜん言うから、夜中に車を走らせた。いつもなら絶対こんなことせえへんけど、今にも泣きだしそうな顔をして言うから

車内では何を話すでもなく無言の時間が続いて
、ラジオから流れてくる音楽だけがたのしそうに響いていた。ぼんやりと窓の外を眺める大橋の横顔を盗み見ることをくりかえしているうちに、潮の香りがしてきた

「着いたで」
「うん」

特に当てもなく、二人並んで歩く。夜中の海辺には人がいなくて、まるで世界に二人きりになったよう、などと柄でもないことを考えていると、大橋から不意に指を絡められて、ドキッとする

「なに？」
「あのね、じょうくん、ずっとぼくのそばに居てくれる？」

とつぜんの思いがけない問いに、すこし動揺して黙りこむと

「なんてな、冗談やで」と笑顔を見せる大橋。そんなけなげな姿がいとおしくてたまらなくなって、手を引いてそっと抱きしめる

「ふふ。びっくりしたぁ～」
安堵の表情を見せる大橋に、聞こえないようにつぶやく

「ずっとそばにおるよ」

この先なにがあるかなんてこの世の誰にもわからへんし、"ずっと"なんて"永遠に"なんて信じられへんけど、今、確かにここにある大橋の湿った指の感触を、潤んだ瞳を、体温を、俺はできるかぎり忘れないでいようと思った