陸拾壱 ページ29
A様がお帰りになられたのは、屋敷を飛び出していった翌日の昼だった。
着物は血にまみれボロボロで、長く美しい髪の毛も、肩につくかつかないかの長さで切られていた。
そして何より、A様は四肢と下半身の無くなった千代さんの骸を抱えていた。顔は右側面が抉れていたけれど、残った目元と口元の部分でそれが千代さんだとわかった。
「A様!!」
俺が駆け寄って声をかけると、A様は幽霊のような光の無い目で俺を見つめる。いつも通り傷一つない美しいご尊顔だったが、今のA様は顔からごっそりと生気が抜け落ちていた。
『……彼女を、埋葬しておけ』
「…承知しました」
そう言われ俺に押し付けられた千代さんの死体は、肉体を欠損しているせいか、酷く軽かった。
一体何があったのだろうか。千代さんの遺体を埋めるための穴を掘りながら考える。
A様は加茂家所有の寺の場所に行った…のだと思うが、遠くの街に嫁入りに行った千代さんの死体を何故A様が持っているのだろうか。
嫁入り先の男が殺人を快感に感じる変態だった……?それとも千代さんは嫁入りに行く前に不慮の事故に会ったとか……?
色々と憶測をあげてみるが、どれも見当違いな気がしてならない。天狐さんや猫魈さんは知ってるのかな…、と思った時、ふと足音がこちらに向かって近づいてきた。
「───お〜い椿……って、何しとるんじゃ? お主」
「天狐さん!」
俺が顔を上げると、そこに居たのは人間の姿になっている天狐さんだった。
天狐さんの人間の姿は、どちらかと言うと男性に近い。狐のような細い目と橙色と金色が混ざったような髪は、そこらの美男子よりも美しいと断言できる。
「ん?この屍は………主の友人ではないか?」
「はい。A様が千代さんの死体を埋めるようにと…」
「……そうか。吾もこの小娘は気に入っておったのじゃが…悲しい限りじゃ」
……A様は天狐さんが人間らしくなった、と言っていたが、俺もそう思う。
その辺の呪霊と違って人間を憎んでいないし、俺やA様、…猫魈さんも、多分大切にしている。
俺は人間として生活していた頃のことを覚えていないけど、天狐さんを見ていると懐かしい気持ちになる。暖かくって、一緒にいると笑いの絶えない人。家族ってこういうことなんだろうな、ってたまにしみじみと思う。
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うさちゃん(プロフ) - ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"好きです!だいすこ。続き楽しみに待ってます (3月27日 11時) (レス) @page42 id: bdc57886de (このIDを非表示/違反報告)
ファナやん - おもしろいです!可能なら原作軸や懐玉編もみたいです! (9月10日 15時) (レス) id: 3812986166 (このIDを非表示/違反報告)
りんか(プロフ) - 面白すぎて何回も見返してます!更新再開してほしいです…頑張ってください!! (8月7日 14時) (レス) @page42 id: d3fb5e7475 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - コメント失礼します!私愛され大好物なので嬉しいです!呪術廻戦のキャラ全員推しなので嬉しいです!更新頑張ってください! (6月24日 10時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
有栖 - めっちゃ面白いです。更新頑張ってください。(*≧∀≦*) (2023年2月5日 15時) (レス) id: e77b6774d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蝋燭 | 作成日時:2021年10月1日 23時