伍拾玖 ページ26
────何が、起こった?
気付けば私は、かび臭い地下の地面に倒れ伏していた。術式の衝撃で天井が崩れ、数多の星が輝く夜空が視界に広がる。外の新鮮な空気と自分の体から溢れ出る血の匂いが鼻腔を擽った。
一体どういうことだ? 加茂憲倫の術式…いや、有り得ない。アレはどう考えても私の呪力で、術式だった。
では何故?呪力の暴発?馬鹿を言うな、呪力を暴発させるなど子供でもあるまいし。ではやはり奴の術式か?
頭の中で様々な憶測が飛び交うが、そこではたと気付く。
(千代……!)
彼女の安否を確認しようと体を動かすが、糸が切れたように微塵も動かすことが出来ない。まるで金縛りにあったように体は固まっていた。
どうにか視線だけで千代の姿を探そうと試みる。羂索の姿は見えないが、今はそちらを気にしている余裕などなかった。
「───これをお探しかな?」
突然頭上から降ってきた声。憎たらしいあの男の声だ。怒りを胸に視線を上の方に動かすと同時に、何かが私の視界に落ちてきた。
そして息を飲む。
(………千代?)
────私の眼前にあるもの。それは四肢と下半身を欠損させた、無惨な千代の姿だった。
千代!と声を出そうとしたが、口から出るのは大量の血液だけ。喉が潰れているのか、咳き込むと鋭い痛みがする。この場に響いたのは私の声ではなく、噛み殺せていない羂索の笑い声だけだった。
「……A…さん……たす………け……て………」
間近にいた私にしか分からない、か細い呪いのような囁きだった。それを最後に彼女の目から光が死んだ。
「あれだけ啖呵を切っておいて酷い有様だね。君も、彼女も」
『……な、にを、やっ、た』
ようやく出た掠れるような声でそう問う。羂索はうっとりとしたように私を見下ろした。気持ちの悪い、嫌な笑みだった。
羂索は懐を探り、私に見せびらすようにして一枚の御札を取り出す。一見単なる呪符だが…どこか禍々しい雰囲気を纏っている。その呪符に刻まれた紋様は、どこか見覚えがあった。
「これはもう数百年も前に途絶えた呪符でね、強力な呪詛返しの術式が付与されているんだ。肉体を移る私の術式がなければ、今頃この呪符はこの世に存在しなかっただろう。君も見覚えがあるんじゃないか?」
『………は?』
私は絶句した。それは呪符の事でも、その呪符の作り方が未だ存在したということでもない。
────私の術式が千代を殺した。その事実を知ってしまったからだった。
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うさちゃん(プロフ) - ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"好きです!だいすこ。続き楽しみに待ってます (3月27日 11時) (レス) @page42 id: bdc57886de (このIDを非表示/違反報告)
ファナやん - おもしろいです!可能なら原作軸や懐玉編もみたいです! (9月10日 15時) (レス) id: 3812986166 (このIDを非表示/違反報告)
りんか(プロフ) - 面白すぎて何回も見返してます!更新再開してほしいです…頑張ってください!! (8月7日 14時) (レス) @page42 id: d3fb5e7475 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - コメント失礼します!私愛され大好物なので嬉しいです!呪術廻戦のキャラ全員推しなので嬉しいです!更新頑張ってください! (6月24日 10時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
有栖 - めっちゃ面白いです。更新頑張ってください。(*≧∀≦*) (2023年2月5日 15時) (レス) id: e77b6774d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蝋燭 | 作成日時:2021年10月1日 23時